これからを生きる人たちへ、未来へとつながる学び その1 食について考える


最近仕事でのプライベートでも大学(生)とかかわりを持つ機会が多くあり、改めて自分自身、「学び」というものと向き合い直している。

大学合格が至上命題となってしまい、良い大学、偏差値の高い大学に入ることのみを目指してしまった結果、大学に入ったとたんに完全燃焼、目標を失い、無気力となっている学生は多い。せっかく「良い」大学に入ったのに、自堕落に学生生活を消化していき、4年間を無駄にし、卒業するころには、入るときの情熱も学力もなくした、ただの無気力サラリーマン予備軍になっている人は非常に多い。僕自身がそうだと否定できない部分もあるし、周りの友人などをみても悲しくなるくらいに往年の輝きを失った人は多い。

今くらいの時期になると、自分は何で大学に入ったのだろうか、将来何をしたいのだろうか、と悩み途方に暮れている学生も多いのではないだろうか。もしくは中学・高校生でもただ漠然と大学に入れればいいや、くらいの感覚で勉強をしている人もいると思う。このブログでは投資会社勤務者としてこれから面白くなると思われる業界、そして未来へとつながる学びについて考えていきたい。

もしタイムスリップしたら、自分は何を学ぶか

友人と話しているときに、もし今の記憶を引き継いだまま高校生に戻れるとしたら、大学で何を学びたいかを話した。僕は迷わず農学を学びたいと答えた。農学には様々な可能性が秘められていると思う。

農学といっても決して農家になりたいわけではない(家庭菜園はしたい)。より広く「農学」の取り巻く世界を考えると、例えば食品科学、生物由来の代替エネルギー、再生可能エネルギー、環境保全、生物多様性、サプライ・チェーン、農地での収穫高向上につながるようなバイオ・サイエンス、食品ロス対策、ごみ対策など現代を取り巻く社会・環境問題に関連した分野が多く含まれている気がする。個人的には食・エネルギー・ゴミ、この3つが今後の世界のキーワードになると思う。すでに長編になりそうな感じがぷんぷんしているが、第1回の今回は「食」について考えていきたい。

生物に欠かせないもの、それは食

先日京大模試を受けているときに驚いたことがある。地理の問題で日本の食糧自給率の低さが取り上げた問題があった。日本の食糧自給率が低いという問題なんて僕が中学生くらいから言われている。ということは15年前くらいから状況が何も変わっていないということだ。相も変わらず日本の食糧自給率が低いのは輸入飼料が~とか、食事の西洋化が~とか定番のネタが目白押しだった。

模試の問題を解く分には昔から状況が変わっていないのは過去の記憶で解けるのでありがたい限りだが、社会問題として考えたら、15年前(もしくはそれ以上前)から、解決がみられていないということになり、実によろしくない。逆を言えば、それだけ食に関する問題は根深いものであるともいえる。

日本にばかり目を向けても実態はつかめないので、ここでは世界の状況について考えてみたい。

世界人口は今や70億人ほど、2050年まで人口は増加傾向を続けると予想され、100億人に近づくといわれている。僕が中学生だった2000年代初頭では、世界人口は60億人くらいと教わったので、実に速いペースで人がぽこぽこ増えていることがわかる。

しかし、人が増えるのと同じペースでその分耕作可能農地面積が増えるわけではない。むしろ気候や土質、サプライ・チェーンの制約などを踏まえれば一人当たりの耕作可能農地面積はどんどん減少していくことになる。

食料への需要は増えるのに、食料を生産する農地面積(供給)には限界がある。こうなると我々が取り得る道は2つしかない。食べる量を減らす(需要減)か、収穫できる量を増やす(供給増)かである。

食べる量を減らすということ

食べる量を減らすというのは何もこれまで1日3回食事を摂っていたのを明日から1日2食に減らしましょうというわけではない。それができれば理想だが、おそらくそんな指示誰も従わないだろう。ではどうやって減らすか。簡単だ。家畜にあげる量を減らすのである。

言うまでもなく、作物を食べるのは人間だけではない。牛、豚、鶏など、最終的に我々が食べることになる家畜だって草食動物なわけだから作物を食べる。なんなら牛や豚なんか人間よりもよっぽどよく食べる。

牛は特にコスパが悪い。1日に何十キロも飼料を食べ、何十リットルも水を飲むのに、牛1頭から取れる肉の量はせいぜい数百キロにすぎないからだ。生育するのに数か月から1年ほどかかることを考えれば、実にコスパの悪い家畜といわざるを得ない。しかも取れた牛肉だって早く食べないと腐って無駄になってしまう。このコスパの悪さはそのまま最終的に我々が買う牛肉価格に反映される。スーパーに行って牛肉、豚肉、鶏肉の価格をそれぞれみてみよう。コスパの悪い順に価格が高いことがわかるだろう。結局このコスパの悪いのを補っているのは我々最終消費者なのだ。

何の対策もなくこのままの状況が続くとどうなるだろう。人口増に見合うだけの肉の供給をできなければ、どんどん値段が上がっていく。今は当たり前のようにスーパーに行けば肉が買えるし、ファミレスに行けばステーキでもハンバーグでも食べることができるが、将来もしかしたら、年数回の特別な時にしか食べられないほど高価で貴重なものになってしまうかもしれない。

このようなことにならないように、現在研究が進んでいるのが代替肉や培養肉に関する研究である。つまり、家畜をわざわざ育てなくても、肉の味わいや風味、調理体験ができるものを作ればいいんじゃね?ということだ。植物由来の原料から肉もどきのものを作る「代替肉」と実際の肉の細胞を培養して実験室で肉を作っていく「培養肉」の2つが今のメイン・ストリームとなっている。特に前者の代替肉はすでに実戦投入されており、スーパーでも「大豆ミート」などの名称で売られているし、ファーストフード・チェーンでも「プラント・ミート・バーガー」などの呼称でメニューに入っている。このようにすでに「食べる量を減らす」という対策は進んでいるのだ。

今後の課題は如何にこのような肉もどきのものを本物の肉に近づけるかということだ。僕もスーパーやファーストフード・チェーンで植物由来の肉を食べたことがあるが、正直スーパーで売っている「大豆ミート」の味はどう頑張っても肉を名乗るレベルに達していないし、植物バーガーも肉汁や食感などがやや物足りない。誰が食べてももはや本物の肉なのか代替肉なのか言われないと区別がつかないレベルにまで洗練させる必要がある。

この分野は今後も伸びることだろう。むしろ伸びざるを得ないともいえる。食品科学は実に面白い学びの分野だ。

収穫できる量を増やす方法を考える

増加を続ける食への需要に対するもう一つの方法は収穫できる量を増やすことである。その方法はまた様々で、単位面積当たりの収穫量を増やす、実のサイズを大きくする、より過酷な環境でも問題なく生育する強い作物を作る、生育スピードを上げる、など考えれば枚挙に暇がない。

上記は決して作物だけに言えることではない。家畜に関しても同じことが言える。実際家畜から取れる肉の量を増やそうとする努力はすでに進んでいる。鶏は品種改良などを経て、今では胸肉が多くとれるように、胸部が肥大化するような品種が生まれており、成長スピードも過去よりも早くなっている(ただし、このような「努力」によって鶏の生育環境はどんどん悪くなっている。動物愛護の観点からみて望ましいのかどうかは議論の余地がある)。作物においても、実のサイズが多くなればコスパがいいし、厳しい環境にも耐えうる強い品種となれば、冒頭にお話しした耕作可能農地面積の拡大にも寄与する。遺伝子組み換え作物の話題は20年くらい前からあるが、今はよりピンポイントに動植物の構造を変えることができるゲノム編集技術による収穫物の増加に関する研究が進んでいる。遺伝子組み換えとかゲノム編集なんて聞くとなんか毒々しい感じがするが、遺伝子組み換えとゲノム編集は似て非なるものである。

遺伝子組み換えとは簡単に言うと外部から新しい遺伝子を組み込む技術である。つまり遺伝子組み換えとはこの世にないものを新たに作り出すものだのだ。遺伝子組み換えは得体の知れないモノを作り出す技術として一部の批判を招き、人体への悪影響など問題視されているのだ。文系の僕がものすごいあほっぽいたとえ話をすれば、人間に犬の遺伝子を埋め込んで、犬人間を作り出そうとするのが遺伝子組み換え技術だ。

それとは異なり、ゲノム編集とは生物がすでに持っている遺伝子を編集する技術のことだ。こちらもあほっぽいたとえをすれば、身長が伸びるのを阻害する遺伝子の働きを弱め、筋肉の発達を促す遺伝子の働きを強めることで高身長の筋肉モリモリマッチョを人工的に作り出そうとするようなものだ。高身長のマッチョは別にゲノム編集しなくても世の中にはいくらでも存在するので、犬人間というこの世に存在しないものを新たに作り出す遺伝子組み換え技術とは大きく異なり、倫理的な観点での批判も少ない。

このように、より厳しい環境でも育つ強い作物(品種)を作ったり、生育スピードの早い家畜をつくったりしようとするのが「収穫できる量を増やす方法」である。

このような分野は遺伝子学、動植物学、バイオ・サイエンス、環境学などなど、こちらもこれからの世界に間違いなく必要となる学問領域である。

収穫できる量を増やすというのを違う観点で考えると、単位コストあたりの収穫量を上げる、というのも一つの方法だ。つまり、これまで10キロのトマトを収穫するのに肥料が1キロ、農薬が3キロ、水が5キロ必要だったのが、半分の肥料と農薬、水の量で10キロのトマトが育てられれば、コストが下がり、トマトの価格の高騰を防げる(コスパが良くなる)。そのためにはよりピンポイントで肥料や農薬を散布できるような農業用ドローンの開発、水不足なエリアや病気の作物を早期にみつける衛生技術なども収穫量の増加に寄与するものだ。

このようなアグリテック(アグリカルチャー(農業)とテクノロジー(技術)を合わせた造語)に関連したスタート・アップ企業や大手企業の新部門の創設なども世界的にみられている。これからの世の中に必要とされる事業となるだろう。

日本で農業というと、おじいちゃんおばあちゃんが腰を曲げて田植えをしている風景が浮かぶが、世界の農業は超ハイテク業界となっているのである。

何を学べばいいのかわからないという学生や中高生はぜひこういう分野に目を向け関心を高めてほしい。

人間最後は衣食住がすべてである。この3つがあればとりあえずは生きていける。その中でも食は世界的に多くの課題を今抱えている。問題があるということはそれだけ解決ニーズがあるということだ。

大学の授業なんてつまんねー、勉強なんてだりーといわず、ぜひ社会・環境課題を自分たちが解決するんだ、という強い思いを持ってほしい。まだまだこれからも将来の世界像を書いていくが、一個でも「面白いなこれ」と思ってもらえるようなものが見つかることを願っている。

次回はエネルギーに関して書いていく。


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