コロナと投資4 仮説と検証を常に意識する


「コロナと投資」をテーマにこれまで3回の投稿をしてきた。コロナの影響でなぜ株式市場が下がるのかを考察し、下落局面にある市場は売りか買いかについて私見を述べ、足元の株式市場をグロース株とバリュー株に分けて考えてきた。今回は実際に銘柄選択を行う上での「仮説と検証」について考えていく。この「仮説の設定」および「仮説の検証」の2プロセスは決して今のコロナの時期だけに通じるものではなく、株式に限らずどのような「投資」においても常に意識するべき思考プロセスである。そして、この「仮説と検証」こそ、我々が学ぶべき最も重要なスキルなのである。

身近な状況を俯瞰し、一般化を試みる

前回の投稿「コロナと投資3」では東証株価指数(TOPIX)のセクター(業界)別にパフォーマンスをみることで、株式市場ではどのようなセクターが投資家から選好され、どのセクターが敬遠されているのかを演繹的にみてきた。つまり、すでに直近までのパフォーマンスをという「結果」があって、それに対して、あれこれと後付けで理由を考察した。

投資を行うのはこれとは逆の思考プロセスである。何か要因(株価が上がる理由または下がる理由)があって、それに対して将来株価の値上がり・値下がりという「結果」が出る。「結果」から始めた前回とは異なり、普通投資をする際には、上がるまたは下がると予想される「理由」からスタートすることになる。

「上がる理由」、「下がる理由」を探るためのプロセス、それが「仮説の設定」

では、実際に僕が考えている仮説をもとに具体的なプロセスを紹介する。前回同様、「コロナの影響下においても堅調に推移する銘柄:グロース株」と「コロナの影響によって売り込まれているが今後上昇(回復)余地が大きいと考えるバリュー株」の2つ分けて考えていく。今回は前者にフォーカスした。

グロース株:経済活動の停滞、外出自粛、学校の休校がもたらすもの

今、日本中そして世界中で不要不急の外出を自粛するような取り組みが行われている。何が不要不急で何が必要火急なのかはおいといて、店は営業自粛や営業時間の短縮を強いられ、人々は外出を控え、リモート・ワークに切り替え、子供たちはいまだ学校に行けていない。過去と比較して家で過ごす時間はかなり長くなっている。

仮説の設定プロセス1:人々はどうやって家で過ごしているのだろうか、と考えてみる。

高齢者:足腰も弱っているだろうし、行動意欲も下がっているだろうし、実はあまり普段と変わらない生活を送っているのではないだろうか。

大人:どうしても店舗・オフィスに行かなくてはいけない職種を除き、だいぶリモート・ワークに切り替える人が増えてきた。飲み屋も20時には閉店するような状況だから家で余暇を過ごしているだろう。やっていることといえばネット、アマゾンプライム・YouTubeなどでの動画鑑賞、ゲーム、そのほか家でできる趣味。外出はせいぜい近所の散歩またはジョギングだろうか。仕事中なのに子供が遊んでてうるさいなと思ってストレスを溜めてる人もいるかもしれない。学校も塾もやっていないとなると子供の勉強の遅れも心配しているはずだ。

子供:学校もやってないし、友達の家にも行けない。家にはずっと親がいて、日中は静かにしろと言われて退屈だ。早く学校が始まってほしいと思っているのではないだろうか。受験生であれば、学校もないし、塾にも行けないし、自分で何とかせねばならないと考えているのではないか。

という風に、単に「人々」といっても年齢層や性別、家族構成などに分解してより詳しく考えることでそれぞれの生活状況に対する仮説を立てる。今回は簡単に年齢層を「高齢者」、「大人(働いている人)」、「子供」に分けてみた。

仮説の設定プロセス2:人は家で何にお金を使っているのだろうか

高齢者:もともとの生活スタイルから大きく変わらないのだから、消費行動も大きくは変わらないのではないか。

大人:家にいるのもさすがに退屈だ。YouTubeにも飽きてきた。これを機にアマゾンプライム、ネットフリックス、Huluあたりに入ってみようか。月々1000円くらいだし、家族みんながみられるし、そう思えば決して高い出費ではない。子供も外で遊べずにかわいそうだ。携帯ばかりいじってるのも良くないし、スマホゲームにハマられてあほみたいに課金されても嫌だしな、、いつもはねだられても我慢させてたゲームでも買ってあげるか。日中静かにしててくれるならそれもいい。自分もたまには童心にかえって子供と一緒にゲームしようかな!?

子供:学校も行かないし、外にも出るなとか言って、それでいて、家では静かにしてろなんて理不尽だ!何か欲しいものはないかと聞かれたけど、ちょうど欲しいソフトも出るし、今まで欲しくても買ってくれなかったゲーム機をねだってみよう!!

大人と子供の消費行動に対して僕はこういう仮説を立ててみた。仮説なんて言うとかっこいいけど、簡単に言えば僕の妄想だ。でもそれでいい。すべては妄想(仮説)からスタートする。

僕はこの仮説をもとに次に「仮説の検証」プロセスへと入る。

仮説の検証プロセス1:身の回りの動向から調べてみる

3月からリモート・ワークに入っている僕は、オフィス勤めだった時よりもランチに時間を割くことができる。午前中に締め切りの近い仕事を一通り終わらせて、ランチはゆっくり90分ほど、天気も良ければ散歩もかねて昼食を外でとる。そのあと帰って、また残りの仕事を片付ける。

こんな生活を送っているのだが、上記の仮説を検証することにする。さすがに勤務時間中にあれこれ調べられるほど時間はないので、ランチの時間を活用して近所の家電量販店とブックオフを周り、ゲーム市場の動向を調べてみた。

家電量販店:すでにスマホゲームに覇権をとられてしまったせいなのか、それともこの店特有の事情なのか、あまり据え置き型ゲーム機およびそのソフトの販売スペースは大きくない。ただし、エスカレーターを降りてすぐのところ、パソコン・コーナーの隣にある。なかなか人の目にはつきそうだ。売れ行き動向は良くわからなかったが、少なくともコロナの影響で販売中止や売り切れということはなさそうだ。

ブックオフ:PS4のソフト・コーナーをのぞいてみる。うーん、ゲームに疎いというのもあるけど、あまり興味を惹きつけられるソフトはないなー。そもそも知ってる有名どころのゲームがほとんど売っていない。ということは、①みんな人気ソフトを家にまだおいていて、ブックオフに売っていないのか、②すでに人気ソフトは買われてしまったか、③僕がただ単に無知なだけで有名どころのソフトがブックオフに売られているのか。

身近な動向だけでは良くわからなかった。自分の意見を後押しするような見方もできるし、③のようにただ単に僕の無知さゆえの予測違いで実はゲーム離れが想像以上に進んでいるのかもしれない。

大事なことは、自分の考えに粘着しすぎないことだ。「仮説の検証プロセス」ではできる限り中立的・客観的に物事を観察することに徹する。

仮説の検証プロセス2:より広範な市場を俯瞰し、仮説の一般化を試みる

さて、身近な調査が終わったら、今度はより広い市場をマクロな視点からみていこう。近所の家電量販店、ブックオフだけの個別事情なのか、日本的・世界的に観察できる事象なのか、はたまたただ単に僕の妄想なのか。

下の図は日本とグローバル(米国・欧州・日本)のハード別販売台数推移である。情報ソースが違うので、ハードの種類など、若干異なるが、大体同じ形状であることがわかる。


出所:ゲーム売り上げ定点観測、2020年4月25日までの集計

出所:VGChartz. 2020年4月18日までの集計

日本でも世界でも、年末商戦の時に最も売れ行きが良くなり、その後は次の年末商戦まで低位な水準で推移するのがわかる。アメリカの場合特にクリスマス休暇に合わせて一気に販売台数が増えるのに対し、日本の場合はクリスマス・プレゼントと年始のお年玉の2段階構成であるため、1月もそこそこ売れていることがわかる。ちなみに勝手に理由付けしているがこれも仮説の域を出ていない。めんどくさいので検証はしないが。
さて、この2つのグラフをみなみんな何が読み取れるだろうか。僕の設定した仮説を踏まえてみていこう。
グラフからわかること
1) ハードゲーム機市場では任天堂スイッチのシェアがめちゃくちゃでかいこと
2) (前述の通り)国内・海外ともに年末商戦期が最も販売台数が大きいこと
3) 2020年は2月~4月に年末商戦に次ぐ山があること、そしてこの傾向は2019年にはみられていないこと
3-1)国内販売台数は特に2月から山が盛り上がり始め、3月にピークに達していること(4月はまだ1か月フルの数字ではないので当然数字は小さくなる)
3―2)海外の山は日本よりも少し遅れ3月以降に山が来ること
3-3)3-1と3-2の時期のずれは日本とグローバルのコロナの感染被害拡大の時期のずれと大体合うこと
4) 販売台数では任天堂に負けているPS4だが国内・海外ともに4月に販売台数が増えていること

どうだろうか。近所の家電量販店とブックオフだけではみえなかったものがみえてこないだろうか。僕の仮説の正誤はともかく、数字は嘘をつかない。解釈の余地でどうこうなるものでもない。ゲーム機は世界で売れている。僕の仮説は個人的な妄想から証拠を伴う事実へと変わった。

この事実をもとに株価をみてみよう。
任天堂

ソニー

いずれも上がっていることがわかる。任天堂なんかコロナ前の水準をもう超えている。まさしく僕が定義したグロース株である。また、この時期に象徴的な出来事が起きている。任天堂、プレイステーションともに世界的人気作品の最新版がでたのだ。
1) 任天堂「どうぶつの森」:2020年3月20日発売
2) プレイステーション4「ファイナルファンタジー7リメイク」:2020年4月10日発売

PS4の販売台数が4月に急増しているのは、待ちに待った、制作発表から実に5年を要したファイナルファンタジー7リメイクの販売が最大の要因なのではないかと考えている。今までPS4を持っていなかった人もこのソフトのためにPS4を買ったと考えられる。ソフト1枚で年末商戦に次ぐ売り上げをもたらした。かくゆう僕もPS4をこのタイミングで買った一人だ。4月中の発売であることを考えるとPS4の販売台数は短期的にはまだ増えるかもしれない。

そして投資をする

仮説と検証が終わったら、最後は実際に投資判断を行うことになる。ここからはもう検証のしようがない。あなたの考え次第だ。

シナリオ1:ゲーム市場における任天堂のシェアの高さを改めて思い知った。どうぶつの森の販売を手掛けているのも任天堂自身であることが分かった。自社ハード+ソフトの売り上げのダブル・アタックだ。

シナリオ2:プレイステーション4のことを調べていたら今秋にはプレイステーション5が発売することが分かった。ソニーのプレイステーション事業はこれからも長らく収益の拡大が見込めるかもしれない。ただし、ソニー全体に占めるこのゲーム事業の割合はどのくらいだろうか。任天堂と違ってゲーム一本足打法ではない点には注意が必要だ。

シナリオ3:ゲーム市場全体が今高まっていることが分かった。新たにハードを買う人が増えているが、当然すでにハードを持っている人も今はゲームをたくさん買う時期かもしれない。ハードのメーカーではなくて、ソフトのメーカーの動向を調査してみよう。

いずれのシナリオにおいても考慮に入れるべきこと

・緊急事態宣言はゴールデン・ウィークまで続くこと
・ゴールデン・ウィークには「子供の日」という子供がものをねだってもよさそうなイベントが控えていること
・ゴールデン・ウィークはおそらく今以上に外出を控えろと政府は言ってくると考えられること
・今のところコロナの感染が収束する兆しはみえておらず、5月6日以降も外出自粛、リモート・ワーク要請は続く可能性があること

ざっとこんな感じで次の行動がみえてこないだろうか。

これはあくまで一例である。「コロナと投資2」で述べたように今の局面は投資を考えるのに非常に良いタイミングであるため、自分の仮説の検証を紹介した。みなさんも、自分の関心のある分野、業界、商品・サービスから着想を得て仮説と検証を行ってほしい。

投資とは自分の「仮説の設定」そしてその「仮説の検証」を繰り返す作業だ。○○が良いと偉い人が言ってたから買う、良くわからないのでXX証券の人がおすすめしたものを買っておけばよいだろう、というのは投資ではない。ただの思考停止した言いなりだ。オレオレ詐欺に引っかかるタイプの人間だ。

大事なことは自分の頭で考え、自分の手で検証することだ。

これは決して投資だけの話ではない。

・今の年金制度は最適なのだろうか。
・国からのマスクの配布は善なのか悪なのか
偉い人が言っているから、テレビで報道されているから、みんながそう考えているから正しい、というのは思考停止人間の短絡的な発想だ。

自分で仮説を立てる、そして検証する。そのために広く深くいろいろなこと、そして検証方法を学び、活用する。

先生の言っていること、教科書に書いてあることは本当なのだろうか。もっと良い方法はないのか、実はこうなんじゃないだろうか。こういう発想、そして検証作業を学生のうちにこそ身に着けることが大事である。

仮説を立てて、検証する。

その裏にあなたはどんな世界が見えるだろうか。


Subscribe
更新通知を受け取る »
guest

CAPTCHA


0 コメント
Oldest
Newest Most Voted
Inline Feedbacks
View all comments