コロナと投資6 見直される消費:バリュー株を考える


ウィズ・コロナの世界

世界的に経済活動の再開の動きが強まっており、日本でもおそらく5月25日には緊急事態宣言の5月末での解除が宣言されるかと予想される。経済活動および外出の自粛が解除されることによって徐々にではあるが経済・社会は正常化へと近づくだろうという好意的な見方がある反面、感染者数の再増加(第2波、第3波)の懸念も払拭されていない。

前回の投稿「コロナと投資 5 アフター・コロナの世界を考える」について書いたが、完全なる「コロナ禍あとの世界」というよりも、当分は「ウィズ・コロナ」、つまり「コロナ禍と付き合っていく世界」というのが現実的だろう。今回はこれまでの考察を踏まえ、ウィズ・コロナの世界になったときに見直される消費、注目すべきセクター、企業について書いていく。

グロース株として注目しているロング(買い)銘柄に関して「コロナと投資4」で述べたので、今回はバリュー銘柄について考えていきたい。

回復の速いセクターと出遅れるセクター

バリュー銘柄と考えているものの中から強気・弱気にみているセクター、会社それぞれ下記に挙げたい。セクター、会社の下にそれぞれ理由を付記した。

強気セクター:(中学)・高校生向け通信教育サービスを手掛ける大手予備校・学習塾

理由

1)学校再開の遅れから子供の教育・学習に関する懸念を抱える家庭からの需要増を予想

2)3密回避のため、個別指導塾は回避されやすい中、集団授業およびオンライン学習プラットフォームを提供する(提供できる資金力、対応力がある)大手予備校・学習塾への需要の集中

3)特に通信教育、校外学習への対応が不向きな小学生(および中学生)向けを除き、高校生対象を予備校・学習塾を特に選好

弱気セクター:スポーツ・ジム特化の企業

理由

1)足元の休会率・退会率の高さおよび入会率の低さ

2)恒常的かつ不可避な3密状態

3)豊富な代替サービス

ウィズ・コロナの世界を想像する

「ウィズ・コロナ」について冒頭で述べたが、そもそもウィズ・コロナとはどんな世界だろうか。

おそらく足元のような状況の延長上のことを言うのではないだろうか。つまり、

1)爆発的な感染者数・死亡者数の増加はみられないが、引き続き数十人~最大100人程度の感染者・死亡者は日々出ている状況

2)人々の間でも気は緩んでいるが、コロナ前ほど完全なオープン状態とまでにはならない状況。在宅勤務も完全終了までには至らず、部分的な職場復帰に留まっている状況

3)コロナに有効なワクチンや治療薬はあるものの、完全にコロナ用の特効薬はない、もしくは少なくとも容易に入手できるほど浸透はしていない状況

このような世界を考えたときに、想像できることは子供の教育問題(学習の出遅れ、受験への懸念)および非必需品・サービスへの買い控えであると考え、それをもとに上記の強気・弱気セクターに関する投資テーマを設定した。

9月入学問題や学習スピードの地域間格差は大手予備校・学習塾への需要増につながると予想

先に挙げた理由をそれぞれ深堀していきたい。過去2週間にわたって裏付けとなるファクト、データ、分析レポートなどを探したが、大したものがないので、この投資テーマに関しては完全に僕の個人的な経験(学生時代のバイト経験)と新聞レベルの情報をベースに書いていく。

学校再開の遅れから子供の教育・学習に関する懸念を抱える家庭からの需要増を予想

現在、政府のほうで9月入学にする/しない、学習スピードの地域間格差に対する問題が議論されている。おそらく大きな政策変更は起きないのではないかというのが個人的な感想だが、仮に9月入学になったとしても、実際の制度設計、スムーズな施行までには紆余曲折経るだろうし、施行後も問題が出てくるだろう。何よりもその直接的な影響を受けるのは、張本人である子供たちである。何もわからないまま大人の都合に振り回される子供たちは不憫でならないし、おそらく親も対策に動くと考えられる。すでに動いているかもしれない。

上記の通り、国公私立を問わず、学校の動向は読めない。となると、頼りにするのはもう一つの教育の受け手である予備校・学習塾となるだろう。当然これらの塾も政府の方針や入試制度の変更等があればそれへの対応策を練らなくてはならないが、対応スピードは学校よりは早いだろう。大手であればあるほど、対応に使えるリソース(資金、人的資源、テクノロジー)も多いだろう。そういう意味で大手予備校・学習塾は子持ち世代からの需要増が見込める。

3密回避のため、個別指導塾は回避されやすい中、集団授業およびオンライン学習プラットフォームを提供する(提供できる資金力、対応力がある)大手予備校・学習塾への需要の集中

さて、学習塾業界全体に対する需要増が見込めるが、その中でも集団授業およびオンライン学習のプラットフォームが提供できる大手予備校・学習塾が親子から選好されるだろう。

学習塾業界というと大きく分けて、集団授業(クラス形式)、個別指導、家庭教師、通信教育(ネット授業を含む)が挙げられるが、おそらく個別指導と家庭教師は3密の観点からみると不安感が強いと考える親子が多いだろう。集団授業であれば生徒間の距離をあけることも、1講義ごとの人数を絞ることも可能である。通信教育であれば、3密を回避することもできる。大手予備校であれば集団授業を行っているし、やろうと思えば映像学習などネット配信なども対応は十分可能だろう。すでに対応しているところもあるだろう。

特に通信教育、校外学習への対応が不向きな小学生(および中学生)向けを除き、高校生対象を予備校・学習塾を特に選好

個人的な経験が中心となるが、大体の子供なんて親が思うほど塾で勉強していない。もちろんめちゃくちゃやる子もいるが、結局子供は子供、誘惑には弱いし、若ければ若いほど、なんで勉強しなくちゃいけないのかも理解していないし、受験に対する意識も(親ほど)高くはないだろう。集団授業の学習塾ならともかく、通信教育をまともにやるとは思えない。

これも自分自身の中高時代(生徒としての経験)・大学時代(塾講師としての経験)から言えるが、まともにちゃんと机に座って勉強するのは中学3年生以上であるという印象だ。高校生を子に持つ親なら安心して大手予備校・学習塾に預けられるだろう。

以上のことから、正直ドンピシャなのはZ会なのだが、残念ながらZ会(および関連企業)は株式市場に上場していないので、東進ハイスクールを運営するナガセに注目する。同社の株価は今後堅調に推移するのではないかと予想する。ベネッセも該当するのだが、教育事業以外の割合も大きいので純粋な教育セクターの銘柄としてナガセを選んだ。

スポーツ・ジムは今後も逆風が強い

次に、今回は弱気セクターもみていきたい。グロース株と違って、バリュー株は「足元割安水準にある銘柄の中で今後経済の回復と主に上昇が期待される銘柄」という意味で使っているが、当然回復スピードはセクター、企業によってまちまちである。上記の学習塾セクターは回復が早いと考えるものの、スポーツ・ジムは少なくとも今年いっぱいは苦戦するだろう。

こちらも冒頭に挙げた理由を一つ一つ見ていきたい

足元の休会率・退会率の高さおよび入会率の低さ

コロナ禍の影響で各店舗は休業、良くて営業時間の短縮を余儀なくされており、今後も一部開校していたスクールの取りやめや、提供サービスの制限は避けられないだろう。休会はまだしも、一度退会すると、少なくとも短期的にもう一度入ろうと腰を上げる人は限られる。アフター・コロナではなく、ウィズ・コロナの世界を考えると、少なくとも今年は年を通じて休会率・退会率を上回る入会率を確保することは難しいだろう。

コロナ前の通常下においての調査をみると、月別の入会者数が高いのは4月~6月である。新年度直後ということで進級、進学、入社、異動、引っ越しが一通り終わって、生活ペースが落ち着いたころに最も入会者数が増えるのだろう。残念ながら、足元も外出自粛と休業によってこの「ゴールデン期間」と呼んでも良いようなかき入れ期間をすでに大部分消化してしまっている。緊急事態宣言が5月末で終了するとなると残る6月に希望を持ちたいとも思うが、おそらく人々の中で、スポーツ・ジムにすぐに入会したいと考える人よりも休業前に休会・退会できなかった人らの申請のほうが多いと予想されるだろう。暑いときに体を動かしたいと思う人が少ないのか、通常の環境下においても7月、8月の入会者数は一般的に低い。通常時であればプール需要を取り込むこともできるかもしれないが、3密に対する懸念がある中で、感染リスクが高そうなプールに入りたい人も少ないだろう。このように、コロナ禍に対する人々の懸念が払拭されていないことと、季節要因は大きい。大幅な月謝の引き下げキャンペーンなどで何とか囲い込むことが予想されるが、利益率の低下をもたらすことになるので、これも長期的な視点では有効策とは思えない。

恒常的かつ不可避な3密状態

スポーツ・ジムは当然体を動かす場所である。汗もかくし、呼吸も荒くなる。飛沫感染リスクは非常に高い場所であるのはすでに報道などで知られていることだろう。アフター・コロナではなく、ウィズ・コロナ環境下においては今後も感染リスクの高い施設として敬遠されるか、もしくは休業の延長を要請される可能性も否定できない。

豊富な代替サービス

スポーツ・ジムは私も通っているのでわかるが、老若男女さまざまな利用者を広く惹きつけるプログラムが提供されている。気軽に通う人もいれば、ボディビルダーやスポーツ・イベントのために鍛えまくる人もいるし、テニス・スクールなどの特化型プログラムに通う人もいる。なにも運動をせずお風呂にだけ入りに来る人もいるだろう。

しかしウィズ・コロナの環境下、感染リスクの高いスポーツ・ジムに通い続けるのはスポーツ・ジムでしか目的を達成できない筋トレガチ勢とスクールガチ勢のヘビー・ユーザーが中心となるだろう。ライト層は一斉に休会・退会で出費を抑えると考えられる。その理由として下記のことが考えられる。

そもそもスポーツ・ジムのサービスにそこまで価値を見出していない

>>筋トレや何かのスポーツの習い事としてどうしても続けたいという思いがあるわけではなく、何となく今までライト・ユーザーとして続けており、退会する手間がめんどくさいくらいにしか思っていなかった利用者はコロナ禍によるこれまでの消費の見直しで、出費を抑えるだろうと予想される。

無料で充実したサービスがあることに気づいてしまった

>>Stay Home運動の盛り上がりもあるせいか、YouTubeには自宅で手軽にできる自重トレーニングやヨガのビデオが充実しているし、ライト・ユーザーの軽い運動程度であれば外のランニングで事足りる。在宅勤務による恩恵もあってか、日中も夕方もランナーを見かけることが多いし、アップルの決算ではウェアラブル端末の売り上げも1-3月期は好調であったとのことである。これまで盲目的に「運動はスポーツ・ジムで行うもの」と考えていた層が無料で提供されるサービスや手軽にできる自重トレーニング、ランニングの優位性に気づき、このような代替手段で満足している人が多いのではないかと予想する。

やや番外編的なものではあるが、各種スポーツ・イベントも今年はすでに中止が決定したものもあり、もしかしたらヘビー・ユーザーからの短期的なニーズは減退しているかもしれない。

スポーツ・ジムを運営している企業は多角経営の企業の子会社であることもあり(コナミスポーツやティップネスなど)、これらの親会社の株価がスポーツ・ジムの逆風によってどれだけ影響を受けるかはより詳細な分析が必要となるが、さすがにそこまでやるとめんどくさいので、ここでは除外する。スポーツ・ジム・ビジネスに特化もしくは少なくとも事業の中核にある企業としてルネサンス、セントラルスポーツをこれから注目していきたい。

最後に、銘柄を挙げるだけでは張り合いがないので

コロナと投資4でグロース株をいくつか挙げ、今回はバリュー株として3社挙げたが、せっかくなので、それぞれのブログ投稿時点以降の株価推移をこれからみていくことにする。

グロース株(ブログ投稿日からの最直近終値:2020年4月24日)

任天堂(7974)

ブログ投稿時:46840円、直近:44880円(-4.18%)

ソニー(6773)

ブログ投稿時:6706円、直近:6773円(+0.99%)

スクエアエニックス(4955)

ブログ投稿時:4490円、直近:4955円(+10.36%)

バリュー株(ブログ投稿日からの最直近終値:2020年5月22日)

ナガセ(9733)

ブログ投稿時:5400

ルネサンス(2378)

ブログ投稿時:1051円

セントラルスポーツ(4801)

ブログ投稿時:2498円

参考

https://www.s-renaissance.co.jp/file.jsp?id=7951&&t=1

https://maonline.jp/articles/sportclub_coronavirus_kessa202005

http://www.waseda.jp/sports/supoken/research/2012_2/5012A324.pdf


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