コロナと投資について、これまで2回に分けて書いてきた。第1弾ではコロナウイルスによってなぜ株式市場が大きく下がることになるのかについて考察し、第2弾では足元のバリュエーション(株価水準)は買い時なのかどうかのかについて、そもそも投資とはなんなのかという視点から私見を述べた。
第3弾として、株式投資をする際に持つべき視点について、グロース株とバリュー株という2つの概念で考えていきたい。ただし、僕がここで挙げるグロース株とバリュー株の例は一般的な定義とは異なる場合もあるので、まずは本来の意味を紹介しながら僕なりの考え方を併記する。
今後成長が見込める企業がグロース株、足元の水準に割安感があるのがバリュー株
グロース株というと、一般的にはまだ製品やサービスが世に十分に浸透していないが、今後より世間に受け入れられることで業績を高める可能性が高い企業の株のことを言う。このような企業には創業間もないもしくは規模がまだ小さいが、今後の高い成長性が期待できる企業も含まれるし、アマゾンやグーグルなどすでに大企業となっているが、今後の事業展開・事業拡大・新製品の導入などで引き続き成長が見込めるような大企業も含まれている。簡潔に言うと、今後も成長が見込める企業ということになる。方向感としては、今の株価からの成長(プラス)である。
バリュー株とは、足元の株価水準が本質的な価値と比べて相当程度割安な株価で放置されており、市場にて徐々にその割安感が認識されていく中で本質的価値まで値を戻ると見込まれる企業の株である。このようなものには、例えば自然災害で主要工場が被災し、復旧までの間生産能力に不安感があることから売り込まれた企業の株や原油価格の下落で収益の圧迫が想定される石油開発を手掛ける企業などが挙げられるだろう。方向感としては割安感・バリュー感(マイナス)からの改善。
今の状況での投資機会(チャンス)をグロース株とバリュー株に分けて考えてみる
グロース株:今の状況がプラスに働いている企業
上のグラフをみてほしい。これはコロナウイルスによる感染被害拡大が本格化し始めた2020年2月末から足元(2020年4月17日)までのTOPIXの業種別パフォーマンスである。このグラフの通り、年初来で株価は大きく下落し、まだ完全に回復はしていない(TOPIX全体では-4.52%)が、業種別にみると、コロナウイルスの感染被害がそこまで深刻でなかった2月末から比較すると、プラスになっている業種がいくつか存在する。「ベストパフォーマンス」の業種を一つ一つみていくと時間がかかるので、パッとみてなんとなくそのロジックに対して簡単な推察できそうなものをみていく。完全に僕が今考えた推察なので、参考までにみてほしい。
上昇率第2位の「電気・ガス業」というのはいわゆる公益セクターの銘柄で、「生活になくてはならない財・サービス」を提供している企業の株であろうと考えられる。不要不急の外出を避けろと言われても、では電気を消して一日過ごそうとか、風呂にも入らず、火を使わない料理だけを食べてしのごうというような人はいない。したがって、こういった景気減速局面でも堅調に推移するのが、こういった公益セクターの銘柄であり、まさに今のような状況において強い銘柄である。
上昇率第3位の「医薬品」は言わずもがな、マスク、消毒液そのほか、僕には想像もつかないが、コロナ関連で需要が高まっている医薬品、医療製品は多くあるだろう。当然今の需要は非常に高い。
上昇率第4位の「パルプ・紙」はトイレットペーパー、ティッシュ、キッチンペーパー、ウエットティッシュへの異常な需要である。最近は多少落ち着いたが、3月中は特にどこに行ってもこれらは品切れ状態であった。言葉を換えれば、タピオカ以上の大ブームであった。
上昇率第5位の「食料品」は第2位の「電気・ガス業」に近いロジックで、生活必需品でありなくてはならないもののため、景気減速時においても堅調に推移する銘柄である。
上昇率第8位の「情報・通信業」はおそらくリモート・ワークをする企業が増えたことによる需要増であると考えられる。テレビ会議システムを新たに導入する企業もあっただろうし、家にWi-Fiがなかったけど、これを機に導入した家庭もあるだろう。
上昇率第9位の「陸運業」は不要不急の外出は控えろとの政府からの要請や、そもそも店がやっていないことで、Amazonをはじめ、通販やネットショッピングの需要は今膨れ上がっているだろう。注文されたものを運ぶのは当然「陸運業」の人たちである。彼らへの需要が高まっているというのも容易に想像できる。
このように上位10業種のうち、6業種に関しては株価が上昇している理由を簡単に推察できる。おそらく残りの4業種もコロナ関連で何かしらの需要増が期待できるのだろう。
これらは、足元の状況においても堅調なパフォーマンスを示している企業・銘柄である。連日のニュースでは株式市場(日経平均株価指数および東証株価指数(TOPIX))全体をみて、今日は上がった・下がったしか言わないが、こうやって少し細かくみるだけで、全然違う見え方ができるだろう。前の節で書いた正確な定義とは違うかもしれないが、これらの銘柄を僕はグロース株と考えている。
バリュー株:今の状況がマイナスに作用しているが、今後回復が見込める企業
次に同じグラフの「ワーストパフォーマンス」をみてほしい。いずれの業種も今後の景気減速で影響を受ける業種である。
不景気になるとみんな手元に現金を持っていたいので投資を控える。投資を控えられると有価証券の売買による手数料収入で生きている「証券・商品先物取引」がそのしわ寄せを食らう。
同じく、景気が悪いとマイホームなんて買っている余裕はない。そもそも、人によっては収入減を懸念され、銀行が不動産ローンを出さない場合もあるだろう。また、需要も減るので不動産開発自体も止まる。「不動産業」のマイナス・パフォーマンスはそれを物語っている。
景気が悪い時に新しく工場を建てようとか新製品の開発を積極的に行おうと考える企業は残念ながら少ない。企業への融資ニーズが減れば、利ザヤで生きている「銀行業」は収益が圧迫される。
コロナの影響で外出を自粛するように言われているのだから当然みんな旅行を控える。特に海外からの旅行者、そして海外への旅行者は足元激減している。そうなると当然空輸は大問題である。運休をしているとはいえ、極端な話、乗客ゼロでも飛ばなくてはいけない。そうなれば業績がどうなるのかは容易に察しが付く。
「非鉄金属」、「ガラス・土石製品」、「鉄鋼」、「鉱業」は素材セクター(または一部エネルギー・セクターかもしれない)に属する業種である。これらは、景気減速時に打撃を受けやすいセクターである。先に述べた不動産(住宅、ビル、工場)の建設や工業製品(自動車や家電製品など)の生産活動が減ればそれらの原材料となっている素材セクターは収益が圧迫される。
このように、ワーストパフォーマンスの業種についても、簡単ながら今の状況がどう今後の業績を左右するのか簡単ながら推察が付く。
こう考えると如何に金融市場は経済をしっかりと反映しているかがうかがえる。テレビのニュースだけではとらえきれない情報を実際にデータが伴って多く知ることができる。
これらの業種の企業の株はコロナ収束後どれくらいの期間をもって回復するかはその業種の特性によるが、少なくとも今後数四半期から数年は業績が低迷するだろう。本質的価値(通常の景気状態)から著しく売り込まれている株ということができる。
しかし、長期的な視点に立てばいずれコロナの問題は解決し、景気は回復する。どんなに悲観的な思考の持ち主でもコロナウイルスで人類が滅亡するとは思っていないだろう。どこかで必ず改善基調に転じる。そうなれば、通常時の状態に戻るにつれて、大きく売り込まれたこれらの株価も戻っていくだろう。まさに現状ではバリュー株であると考えることもできる。
このように、今はまだ気の滅入るような報道が多いが、株式市場の状況をみると、何かしらの光明を見出すことはできないだろうか。あなたはグロース株とバリュー株、どちらを選好するだろうか。
次回は、株式投資をする際に重要となる「仮説と検証」について話す。特に足元の状況はこの「仮説と検証」を行うのに非常に最適な状態である。ちなみに、僕が上に述べた各業種の状況考察(推察)はすべて仮説である。