フィンテック…金融(Finance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語であり、仮想通貨から新たな金融サービスの登場と数年前から注目されている金融の一分野である。その中に、フィンテックを活用して手軽な資産運用方法としてロボ・アドバイザーが一時注目を集めた。
ロボ・アドバイザーの登場に非常に興味がわいた私は、2017年ごろから実際に自分でもサービスを利用してみた。最初は面白おかしく使っていたが、最近この手数料があまりにも割に合わないと気づき、ロボ・アドバイザーによる運用を中止した。今回はなぜロボ・アドバイザーを使う必要がないのかを解説する。
そもそもロボ・アドバイザーとは何か
簡単にロボ・アドバイザーについて説明する。
ロボ・アドバイザーとはフィンテックの一分野として注目されているサービスであり、人間の代わりにロボット(というかプログラミング)が自動であなたの代わりに資産運用を行ってくれるサービスである。我々投資会社のサービスを人間ではなく機械がやってくれるというものだ。
具体的には、定期的な積立の指示を出しておけば、あとは勝手に各個人のリスク許容度(どのくらいの値動き、市場変動性、突き詰めれば元本の毀損リスクを享受できるか)に従って、自動的にポートフォリオを構築し、運用(銘柄の自動購入、定期的なリバランス(ポートフォリオの細かい調整))を行ってくれるサービスだ。運用額よりもよるが概ね手数料は運用報酬は1%程度である。
日本だとウェルスナビやTHEOがロボ・アドバイザー専門業者として大手であり、そのほかのネット系証券を中心にこれらのサービスが拡大している。
私もこのロボ・アドバイザーが流行りだしたころ、非常に面白いと感じて自分でもウェルスナビを始めた。THEOではなくウェルスナビを利用したことに特に理由はない。そのころANAと提携してマイレージ・サービス・キャンペーンがあったのでそれに飛びついたというだけである。
ポートフォリオ構築までの流れ
さて、サービスの開始前にまずは簡単なアンケートに5問ほど答えて自身のリスク許容度を決める。ウェルスナビは5段階評価のようで私はリスク許容度が最も高い部類に分けられた。
ちなみにこのリスク許容度の判定とはなんてことはない、ただ株式と債券の割合を決めるためだけの非常に単純化されたものである。リスク許容度が高いほど株式への投資割合が高くなる。
次に定期的な積立額の詳細を決めていく。積立の頻度、額、銀行口座からの引き落とし日などを設定する。
以上を決めたら、実際のポートフォリオの構築および運用作業へと入る。ここからはもう基本的には機械に任せきりとなる。
ポートフォリオの中身
下記が実際の私のポートフォリオの中身である。
ご覧の通り、株式をメインにポートフォリオが構築されており、債券、金とより安全性の高い資産、分散の観点からリートも入っている。
最初のころは、うまい具合に地域分散および資産クラスの分散ができているなと思った。ウェルスナビ自体が謳っているが投資において大事なことは1)分散、2)長期投資、3)積立である。このポリシーに異存はない。
ただし、より具体的にみていくと大したものではないことが分かってきた。どの辺がどう大したことないのか詳細にみていく。
ロボ・アドバイザーが大したことない理由
投資会社の人間として、以下が大したことがない理由である。
1)分散の方法があまりに単純すぎる
2)組み入れている銘柄の手数料とロボ・アドバイザーの手数料が割に合わない
3)意味不明なリバランス
まとめ)自分でもっと安く、思いのままにできる
一つ一つ具体的にみていきたい。
1)分散の方法があまりに単純すぎる
リスク許容度を決めていざ分散されたポートフォリオを構築していくわけだが、まずこの作業があまりにもおおざっぱである。
リスク許容度を5段階で評価して、株式と債券の組入比率を判断するわけだが、正直この組入比率の決定はそう簡単ではない。というか最適な組入比率に関する結論は出ておらず、「大体このくらい」という目安感はあるものの、「最も適切」という観点ではまだ学術研究が多くなされているレベルである。ちなみにアメリカにおいて広く受け入れられている「大体このくらい」の組み入れ比率は「100-(自分の年齢)%」を株式、残りを債券というものである。若ければ若いほど株式への投資比率を高くするべきというのがアメリカでの基本スタンスだ。
5段階評価による組入比率にどういう根拠があるのか知りたいところだ。おそらく何かしらの根拠はあると考えられるが、「最適」というものの結論が出ていない以上、この組入比率で本当にいいのかは判然としない。まあこれはいちゃもんみたいなものなのでこの辺にしておく。
2)組み入れている銘柄の手数料とロボ・アドバイザーの手数料が割に合わない
それよりも重要なのが、銘柄の選定である。
上記の画像をもう一度見てもらうと、組み入れている各銘柄の証券シンボルが記載されている。例えば「米国株」であればVTIというETFを買っていることがわかる。
「米国株」というカテゴリーではほかの銘柄はなく一律このVTIを買っているようだ。
参考にマネックス証券のサイトをみながら、組み入れている各銘柄のETFの運用手数料は下記の通りである。
シンボル |
銘柄名 | 運用手数料 |
VTI | Vanguard Total Stock Market ETF | 0.03% |
VEA | Vanguard Ftse Developed Etf | 0.05% |
VWO | Vanguard FTSE Emerging Markets ETF | 0.10% |
AGG | iShares Core U.S. Aggregate Bond ETF | 0.08% |
GLD | SPDR Gold Shares SPDR | 0.40% |
IYR | iShares U.S. Real Estate ETF |
0.44% |
これを踏まえ、もし同じ投資額を自主運用した場合はいくらかかるのかをみてみよう。まとめると下記の表の通りだ。
証券シンボル | 投資額(円) | ポートフォリオ組入比率 | 運用手数料 |
VTI | 113,462 | 34.78% | 0.03% |
VEA | 106,802 | 32.74% | 0.05% |
VWO | 48,938 | 15.00% | 0.10% |
AGG | 15,696 | 4.81% | 0.08% |
GLD | 24,263 | 7.44% | 0.40% |
IYR | 15,200 | 4.66% | 0.44% |
現金 | 1,829 | 0.56% | 0.00% |
合計 | 326,190 | 100.00% | ー |
ウェルスナビ運用報酬 | 自主運用 | 差異 |
3,262円 | 312.87円 | 2,949円 |
=326,190円×1.0% | =各投資額×各運用手数料の合計 | ー |
ウェルスナビの名誉のためにここで一つ大事なポイントをおさえたい。ポートフォリオ運用の場合には上記の運用手数料のほかに銘柄を売買する場合の取引手数料というのが別途かかる。ウェルスナビは取引手数料を含んだ料金体系なのだから、自主運用の場合もそれを加味しなくては、料金比較でウェルスナビが不利になってしまう。したがって、今度は取引手数料を加味した料金体系の比較をしてみたい。ちなみにマネックス証券で上記のETFを購入した場合の取引手数料は投資額×0.45%である。
自主運用手数料 | 自主運用取引手数料 | 自主運用合計 |
312.87円 | 1,459.62円* | 1,772.49円 |
こちらを加味すると上の表の通り、取引手数料が約1460円、運用手数料と合わせて1772.5円となった。
*ただし、マネックス証券ではVTIの取引手数料が0円となっているので、そちらを踏まえると、自主運用合計額は949.05円まで下がる。マネックス証券を使わない場合はわからないので、とりあえずこの割引は無視して1772.49円のまま話を進める。
取引手数料を加味すると、ウェルスナビとの手数料の差は下記の通りだ。これでだいぶ実態に近づいてきた。
ウェルスナビ運用報酬 | 自主運用 | 差異 |
3,262円 | 1,772.49円 | 1,489.51円 |
=326,190円×1.0% | =運用手数料+購入手数料 | ー |
実に1500円近い差が発生していることになる。この差額がウェルスナビの収益となる。
当然ウェルスナビだって営利企業なのだから、中抜きして当たり前なのだが、自分でやる手間を惜しまなければ節約できる額は大きい。積立NISAを使って積立設定を行っておけば、定期的な取引の手間も省ける。ウェルスナビに支払っている手数料1%のうち0.45%超がウェルスナビの取り分である。
銘柄も自分で選べない不自由さを前から感じていたが、手数料の比較を行い、割に合わないと感じ私はここの時点でウェルスナビの解約を決めた。
3)意味不明なリバランス
四半期ごとか、半期ごとか、ちゃんと調べていないが、勝手にポートフォリオがリバランスされる。リバランスとは、例えば高くなった銘柄が一部売られ、その売却分で安くなった銘柄を買うという、ポートフォリオの微調整のようなものだ。日々の値動きや配当による現金比率の上昇などでポートフォリオ内の株と債券の比率や銘柄間の比率が崩れるとこのリバランスを行って比率を一定の範囲内に戻そうとするためのものだ。
理屈はわかるが、個人的にはなぜ上昇して含み益が出ているものを売られるのか意味が分からない。というか腹立たしかった。配当や定期的な積立分を投資比率の下がった銘柄に多く配分して投資比率を調整すればいいわけで値上がりしているものを売ってまで無理やり調整する必要があるとは思えない。これではドルコスト平均法による利点が薄まってしまう。
まとめ)自分でもっと安く、思いのままにできる
ということで、ウェルスナビのネガティブ・キャンペーンのようになってしまったが、決してウェルスナビなどのロボ・アドバイザーが悪いのではなく、自分の好きなように投資できないという私の好みと合わないということだ。
投資だの、経済だの、そんなの考えるだけめんどくさい!手数料払うから誰かに代わりに全部任せちゃいたい!という初心者向けのサービスであるといえる。いろいろ自分で経済動向をみたり、銘柄を選んだりしたいという人は自分でやるほうが楽しく感じるだろう。また自分の納得のいかないものに高い手数料なんかかけたくないだろうし、かけなくて良い。
手数料ビジネスの本質は情報格差にある。情報を自分で取得する手間を惜しむ人は手数料を払って代わりの誰かにやってもらえばいいし、手間を受け入れる人は自分であれこれ試行錯誤しながら運用を行うことで余計な出費を抑えることはできる。これはなにも資産運用に限った話ではない。
水筒を家から持ち歩くという手間を受け入れることで、外出中にコンビニで買う飲み物代(150円)を節約ができるというのと同じようなものだ。飲み物と違って目にみえないものであるが、ロボ・アドバイザーによるサービスも手間を惜しむか受け入れるかの選択なのである。
学部学科にかかわらず、これを読んでいる人は投資に興味がある人だろう。ぜひ自分で銘柄選定をしてみてはどうだろうか。ロボットにはみつけられない掘り出し物に出会えるかもしれない。
参考リンク: