自分の投資スタイルを確立するということ:共感できる分析手法をみつける


前回のブログでは投資スタイルの確立に向けて、まずは参考になる著名投資家を探し、その人のお金に対する考え方や投資への思いなどを徹底的に学ぶことの重要性をお話しした。このように実際の成功者のマインドというのを知ることで、自分のお金への接し方や投資に対する自分の思いなどを固めることができる。

マインドが固まってきたら次にどのような分析スタイルが自分に合うのか、というものである。ここで前回のブログの冒頭で書いた、「僕は財務分析をしないし、株価収益率とかも正直良くわからない」といった話とつながる。今回のブログでは僕自身の分析スタイル、アプローチの仕方を紹介する。学生や若い社会人であればこれから投資というものを本格的に行う人もいるだろうが、是非とも参考にしつつ、自身の分析スタイル、アプローチについて思いを巡らせてほしい。

僕の分析スタイル、なんて大層なものでもないが、ベースとなっているのはやはりウォーレン・バフェットの考え方だが、細かいことはジョージ・ソロス/ジム・ロジャースのやり方に近い。

株式分析におけるウォーレン・バフェットの基本的な考え方は以下の通りだ。

1)自分が理解できる事業を行っているか

2)50年後も欲しいと思うサービス・商品を提供しているか

3)競争優位性を有しているか

主にこの3つを柱としており、僕自身も企業をみるときはこの3つを大事にしている。というか、この3つのうち、1つでも外れた会社は損を出している可能性が非常に高い。

如何にこれまでの僕の投資失敗事例を反省とともに振り返る。

1)自分が理解できる事業を行っているか

>>これは非常に重要だ。その昔「これからは太陽光発電が来る!」という実に単純かつ浅はかな考えで、ソーラー・パネルを制作しているメーカーの株を買った。この企業もしっかり分析して探し出したのではなく、単に「日本 ソーラー・パネル」みたいな感じで適当にググって、出てきた企業のうち手持ちの資金で買えそうな会社を選んだ、というだけでもはや分析でも何でもない。

再生可能エネルギーが今後隆盛していくのは事実だと思うが、こと、日本ではまず既存の電力会社が強すぎるし、既得権益層を守るために規制でがんじがらめだ。太陽光発電など再生可能エネルギーに対する固定買い取り制度みたいなのも10年ほど前から始まっているが、この固定買い取り価格は年々引き下げられ、近い将来なくなってしまう。そして、何よりも土地活用や、それこそ「太陽光発電投資」を謳って、劣悪なソーラー・パネルを売りつけるなどの問題も多発しており、想像していた以上に日本で太陽光発電は流行っていないし、おそらくこのままの規制環境下では今後も流行らないだろう。十分な調査も分析もせず、おそらく新聞の記事か何か1つを読んだだけで、適当に投資したため、えらく痛い目に遭った。今でも塩漬けにしているが、これが何と買ってからのパフォーマンスがマイナス95%超。もはやつぶれるのも時間の問題だ。幸い(?)投資資金自体は10万円程度と大した額ではないので、自分への戒め・教訓としてこの会社がつぶれるまで持っておく予定だ。

2)50年後も欲しいと思うサービス・商品を提供しているか

>>「石油はあと30年ほどで枯渇する」なんて文言が小中学校の時に教科書に出てきた人は多いのではないだろうが。僕が小学校の時(つまり20年前)からこの手の文言は出てきたが、いまだに石油は枯渇していないし、枯渇危機にもないし、なんなら大げさな言い方をすればあまり余って日々ただ垂れ流れているレベルだ。コロナ禍がひどかった3~4月ごろはあまりにも原油の需要が下がりすぎて価格が一瞬マイナス、つまり「お金をあげるから誰か引き取って」というレベルにまでなっている。

原油価格が高騰していた2015年ごろに、いよいよ原油が枯渇する!と勝手に勘違いした僕はとある石油開発業者に目をつけていた。その後逆に石油が下がりに下がったところで、「この後また急激な上昇が来るはず!」と逆張り的発想でその会社に投資を行った。結果は、今みるとマイナス58%超。ひどいものだ。こちらも投資額自体は15万円くらいなのでどうでも良いといえばどうでも良いが、それにしても我ながらひどいパフォーマンスだ。

その後投資会社に入って知ることになるが、こういうエネルギー・セクターは非常に景気敏感性が高く、経済動向による影響を受けやすいことを学んだ。また、当たり前といえば当たり前だが、人類もそんな馬鹿じゃないので「石油が枯渇する!」と分かったら代替エネルギーを必死に探して、石油が枯渇しても問題ないように対応する。今では各種再生可能エネルギーもあるし、伝統的な水力発電もあるし、シェール・ガスなるものもある。石油がなくなっても我々の生活が困ることのないよう、人類は知恵を働かせている。安直な理由から投資を行うのは失敗のもととなる。

3)競争優位性を有しているか

こちらはまさにこれまで何度か例として挙げているサンマルクが当てはまるだろう。カフェ業界も競争が激しい。パッと思いつくだけでも、スタバ、上島珈琲、タリーズコーヒー、ドトールコーヒー、サンマルク、エクセルシオール(ドトールと同じ会社だが)、コメダ珈琲、ルノアールなどいくらでも近所にあるチェーン系喫茶店を挙げることができる。

この中でサンマルクに優位性があるものが、なにかあるだろうかと考えると、せいぜいチョコ・クロワッサンくらいか。ドリンクはどう贔屓目に採点してもおいしいものではないし、スタバのように季節に合わせて新作ドリンクを次々と打ち出す努力もしてないし(今更タピオカを始めたくらいだ、、)、上島珈琲みたいにおしゃれな店構えでもないし、ドトールほど安いわけでもない。

なんだか書いていて悲しくなるくらい平凡な喫茶店だ。もともと優待目当てで買ったから良いとは言えあまりにも高値掴みをした失敗事例だ。リターンはマイナス60%超。投資額もそこそこに大きかったのでこちらはほかの失敗事例と比べわりと痛手だ。

このようにその時々の話題性や一時的な動向だけで買った銘柄は軒並み失敗している。

これだけ書くとまったく投資に成功していない印象が強まってしまうので、逆にこれらの項目を少なくとも大体は満たすと考えて買った銘柄の成功事例(一部)も書いていく。いつも挙げている推奨銘柄以外でリストアップした。

  理解できる事業 50年後も欲しいか 競争優位性 投資来リターン
アマゾン +252.82%
バンダイナムコ +193.35%
ナイキ +167.49%
シェイクシャック +166.58%
スタバ +136.83%

言い訳だが、前回のブログでも書いたが、基本的に日本株は優待目当てで、リターン狙いは米国株フォーカスとしていること、およびいつも挙げている推奨株は外しているのでこうやってみると米国株ばかりが高リターン・リストに挙げられやすい。全部のリターン・リストを記載してもいいんだが、ちょっと集計がめんどくさいのでこれだけにしておく。

ご覧いただける通り、買っているのは基本的に小売業ばかりだ。というか小売業メインじゃないと事業内容が僕には理解できない。いずれも世界的に良く知られた企業だと思うし、3つの観点からも高評価をあげることができる企業であろう。

これらの会社がすごいのは昨今のコロナ禍で打撃を受けている小売業であるということだ。それでもこれだけのリターンを創出しているというのはやはり、企業としての強さを感じる。

また、小売業の良いところは実際に商品・サービスを気軽に試せるし、周りの人間の意見も聞き取りやすい。米国株に関しては特に出張でニューヨークやロンドンに行った際は、ホテル近くのスーパーやショッピング・モールなどへ行って、行列になっているチェーン店や人気の商品なんかをチェックしておく。そして業界動向等を調べ、上の3つに当てはまるものであれば投資候補とする、といったプロセスを踏んでいる。

シェイクシャックはまさにその好例で、投資を決めた時はまだ日本に店舗があるかないかくらいの時期だった。僕がニューヨークに住んでいたころ、たまたま遊びに来た後輩がシェイクシャックに行きたい!と言いだして気に留めるようになった。行列が絶えない人気の商品ラインナップ、店の雰囲気、事業開始から上場までのスピード感、勢い、これらを考えて割安な価格で投資を行うことができた好例である。

同じ事を先ほどの失敗事例でやると下のようになる。もはや評価は「×」ではなくて「?」だ。そもそもそんな深く考えないで買ったのでどういった事業をしている会社なのかすら詳しくは知らないほどだ。

  理解できる事業 50年後も欲しいか 競争優位性 投資来リターン
ソーラー・パネル・メーカー -95.02%
石油開発会社 -58.06%
某サンマルク × -60.41%

自分が良く知らない事業や業界に手を出してはいけないというのを如実に物語るものとなっている。我ながらひどいリターンだ。

投資をする際はこのようなスクリーニングというか投資判断を簡単にするためのチェック・リストのようなものを持つと意思決定を円滑にすることができる。私はウォーレン・バフェットの考え方に即したスクリーニングを設定している。

個別企業分析を諦め、投資テーマの設定に注力する

さて、ではどういう風にそもそもこのスクリーニングに通す企業を探し出すのかということだが、おそらくここが僕がウォーレン・バフェットの考え方に沿っていない部分だ。ウォーレン・バフェットは恐ろしいほど財務諸表を読みこなし、分析し、投資判断のヒントとする。彼の分析手法はベンジャミン・グレアムの『証券分析』という本に着想を得ているというのは有名な話だ。ちなみにこの『証券分析』は日本語版も出ているので我こそはという人はぜひ読んでみてほしい。コロコロコミックくらいの厚さがある大書だ。

ウォーレン・バフェットはこの証券分析を生業としているので、知見もあるし、能力もあるし、時間もあるしで良いのだが、残念ながら僕に個別企業の財務諸表分析を行う能力もないし、『証券分析』も読んでいないし、今から読んでやったところでウォーレン・バフェットどころかその辺の証券会社の新卒アナリストにも太刀打ちできないだろう。

だから、僕はしない。餅は餅屋。できないことに手を出すのではなく、できることに注力する。

投資テーマの設定とトップ・ダウン・アプローチ

個別企業の財務分析を通じて投資企業を決めていく作業を「ボトム・アップ」という。有象無象の企業の中から魅力的な企業をすくいだすアプローチだ。

僕は鳥瞰図的に上から広く業界やトレンドを眺めて、今後話題になりそうな投資テーマを探す。

これまでブログで紹介してきたもので行くと、

「コロナと投資」シリーズ

コロナと投資1

コロナと投資2

コロナと投資3 グロース株とバリュー株

コロナと投資4 仮説と検証を常に意識する

コロナと投資 5 アフター・コロナの世界を考える

コロナと投資7-1 たまには不動産投資の話

コロナと投資7-2 不動産投資に関する立地分析

「農地投資」から関連して代替肉の可能性

いま最もアツい投資テーマの一つ、「農地投資」を考える その1農地投資概要

いま最もアツい投資テーマの一つ、「農地投資」を考える その2 低位な景気循環性

いま最もアツい投資テーマの一つ、「農地投資」を考える その3 食糧需給の今、そして未来

いま最もアツい投資テーマの一つ、「農地投資」を考える その4 生産性の向上を支える未来の技術

食糧需給に革命をもたらす代替肉

食糧需要の未来 ビヨンド・ミート社の魅力

などで述べてきた。これらをみていただければ僕の思考プロセスがご理解いただけるだろう。つまり、その時々で興味のあることや社会的に話題になっているものをテーマに据えて、上から段々に絞り込みを行うという意味でトップ・ダウン的なアプローチだ。非常にかっこよく言うと、ジョージ・ソロス/ジム・ロジャースが行っていた、「グローバル・マクロ」というアプローチに近い。グローバル・マクロとはまさにグローバルのマクロ経済動向を分析して、魅力的な投資対象を探していく分析の仕方だ。自分がやっていることがグローバル・マクロだなんて大層なものではないが、考え方はウォーレン・バフェットの徹底した個別企業分析よりもグローバル・マクロに近いものがある。

最後に「割高感」と「割安感」について

証券分析は重要だと思う一方僕にはその能力がないという話をした。最後に株価の「割安感」と「割安感」について私見を述べたい。

よく、「今の株価はPERで割高感が強く~」なんていうが、「割高感」とは何だろうか。アマゾンの株なんか2018年ごろから、株価が2000ドルの時くらいからずっと「アマゾンは高い」、「割高すぎる」、「過熱しすぎ」といわれてきた。今や株価は3000ドルを超えているし、調整局面を迎えても3000ドルを切ることは数回あったくらいだ。今の株価は3300ドルにまた迫ろうとしている。

結局「割高」だの「割安」というのは競合他社との相対感でしかなく、絶対的に信頼できる指標ではない。PER、PBR、ROEなどいろいろバリュエーション評価を行う指標はあるが、僕は全くみていない。邪道だと思うが、これらの指標がいくらになったらどうなる、という風な位置づけにはないと個人的には考える。この辺も溢れかえる投資の教科書とは違う考えかもしれない。

 

今回は僕の投資事例(失敗)を使いながら、分析の仕方、みるべき項目についてお話をした。このように参考にする著名投資家の分析スタイルや考え方を学ぶことで自分なりのアプローチの仕方を確立してほしい。

ここに書いた僕のやり方はあくまで一例というか、僕自身が心地よく思っている均衡点のようなものであり、誰かにお勧めするものでもないし、絶対的に正しいなんて言うつもりもない。というか投資に正解なんかない。あれば教えてほしいくらいだ。

次回は「3)自分自身の中の伊豆を排除する:行動ファイナンスを理解する」についてお話しする。


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