これまで2回に分けて、自分の投資スタイルを確立することのプロセスをお話しした。
自分の投資スタイルを確立するということ:まずは投資マインドを確立させる
自分の投資スタイルを確立するということ:共感できる分析手法をみつける
最後となる第3回の今回はこれまで確立した「投資マインド」と「分析スタイル」の執行に注力し、自分の中にある精神的な歪み(ノイズ)を排除することの重要性について話したい。せっかく投資マインドと分析スタイルを固めても、それを粛々と実行することができなければ、意味がない。
第1回で投資ルールを設定して、それに従えというのを「一般的な投資の鉄則」として紹介したが、この「設定したルール」を履行することが何と難しいことか。難しい理由は人間には「感情」というものがあり、株価が上がっていれば「早く買わなければという欲」、下がっていれば「早く売らなければという焦り」があるからだ。
普段スーパーに買い物に行って、欲しいものが「高かったら買わないし、安かったら予定していたよりも多く買う」という当たり前のことが、なぜか投資だとできない。逆に高かったら買い急ぐし、下がっていたら売り急ぐ。まるで経済学が仮定する合理的経済主体からはかけ離れた行動をとってしまうのが我々生身の人間だ。
だからこそ、その1で述べた投資マインドが重要となる。短期的な株価の上げ下げに一喜一憂しない、(僕の場合は)損切しない、など自分自身の性格・感情と合うルールを設けるべきだ。
ルールに徹するためにここでは行動ファイナンスの考え方を紹介する。自分が設定した投資ルールを順守するためにどのような感情的な揺れ動きが自分の行動を惑わすのかについて理解しておくことが重要だ。自分の感情を理解することができたらいざとなったときもそれに対応しやすくなると思うからだ。
自分自身の中のノイズを排除する:行動ファイナンスを理解する
行動ファイナンスまたは行動経済学とは経済学と心理学を掛け合わせた学問だ。伝統的な経済学では経済主体の行動をこう仮定するよね、でも実際の人間は感情があるから経済学が仮定するほど合理的な行動はしないよね。じゃあどういう行動をとるのか、そこにはどんな心理学が潜んでいるのかを考えるのが行動経済学だ。この行動経済学の考え方を特にファイナンス、投資に特化させたものが行動ファイナンスだ。
投資において重要となる行動ファイナンスだが、特に下の3つのバイアス(偏った考え方)にとって今回は紹介したい。
1)損失回避バイアス
2)確証バイアス
3)ホットハンドの誤謬
それぞれ詳細を紹介するので自分がこのような感情の歪み、偏った考え方に陥っていないか常に気を付けよう。
1)損失回避バイアス
損失回避バイアスは読んで字のごとくだが、我々は損失を回避しようとする感情が非常に強く、その程度は同じ金額を得るよりも強い。
例えば500円を得た時の嬉しさと500円を失ったときの悔しさ・悲しさを比べると、後者のほうが大きく感じる。また損失回避をするために、その損失を解消できるようなことがあれば無謀なことでもやろうとする傾向がある。そうやって不要なリスクをとってより一層損失を膨らませるというのは皆さんも一度は経験、もしくは周りの出来事として見聞きしたことがあるのではないだろうか。
損失回避バイアスへの対策としては「回避する」というよりも「うまく付き合う」というほうが適切だろう。損失回避バイアスは人間に備わった防衛本能のようなものなので、機能を停止させることは難しいし、しないほうが良い。うまく付き合う方法としては投資マインドに応じて以下の3つが挙げられる。
1A)損切りをする場合は厳格に「評価格からマイナス〇%になったら強制的に売る」という風に確固としたルールを設けることだ。「もしかしたらこの後急反発するかもしれない」とか「一時的な下落だからもう少し様子をみよう」などと考えずに、もうそこは機械的に強制執行するべきだ。そうすれば最大損失率を〇%程度に抑えることができる。その後仮に急反発したとしても、すでに外したポジションのことなど忘れて次に行く。
1B)私のように損切りをしないと心に決めた場合は、仮にその株が紙くずになっても良いくらいの額だけの投資に留めよう。10万円がゼロになればもちろんイタいがまあ来月の給料が入れば忘れられるくらいの痛手だ。でもこれが50万円とか100万円になるとさすがに数か月は夢に出てくるかもしれない。このように自分のメンタルが正常に保つレベルの額に1社あたりの投資を抑え、ポートフォリオの分散を意識しよう。
1C)今回のコロナでは株によっては「一時的に」半値くらいになったものあるだろう。しかし、そのあと市場は急回復してコロナ禍前の80%くらいまで戻したものがほとんどではないだろうか。このように下落が一時的だ、この会社が今の下落局面でつぶれるわけがないと思えばナンピンも僕は辞さない。これは投資の教科書に反するものだが、冒頭の例でいえば、欲しいものがバーゲン・セールになったようなものだ。ここで買いに行けることこそ僕は真の投資家だと思う。ウォーレン・バフェットも言っているが、他人が売っているときに買い、他人が買ってるときに売る。このマインドこそ僕が一番大切にしたい考え方であり、心がけだ。ただ、判断は個人の自己責任でやってほしい(笑)
さて、次の2つのバイアスは正直損失回避バイアスほど「うまく付き合う」のが容易ではない。しかも投資マインドを確立し、分析をすればするほど陥るものだ。これに関してはしっかりと自分もこういう心理状態に陥る可能性があると、自覚し分析において普段から中立性を心がけることが重要となる。
2)確証バイアス
確証性バイアスとは何かを調べているときに、自分の意見と同じものや、それを支持するような情報ばかり集め、自分の意見と異なるものや反対意見を意識的・無意識的に集めなかったり、盲目的に信じなかったりするようになることを言う。
これも多くの人に経験があると思うが、自分が信じるもの、正しいと思うものに関する情報は自然と入ってくるし、集めるのも苦じゃないが、自分とは反対意見や、正しいと思わないものに関しては見て見ぬふりをすることがあるだろう。
この株が上がると考えると、それを支持する記事やニュース、データばかりに目が行ってしまい、都合が悪い情報はシャットダウンしてしまう。
もし、足元自分が注目している株が上がっていたらなおさら、自分の分析は正しい!この後も株は上がり続けるはず!と思ってしまう。そして自分の投資熱を冷ますような情報や意見が耳に入っても、「こいつは何もわかっていない!」、「なんで自分の意見が理解できないんだ!」と思ってしまう。
もちろん自分の分析が正しい場合もあるだろうが、正しいか正しくないかということよりも、自分の考えに固執しすぎると重大な欠点や注意するべきリスク要素を見落としてしまうということがこのバイアスの肝だ。どんな投資においても必ずリスクや不安要素というものはあるはずだ。確証バイアスが強ければ強いほどこのようなマイナス材料の特定が遅れ、高値掴みをしてしまったり、(少なくとも短中期的に)上昇する可能性が低い低迷株にナンピンを行ってしまったりしまいかねない。
良い投資だと思う場合であっても、耳が痛くなるようなリスクはないか、それを踏まえたうえでもなおも投資妙味があると思えるかということには常に注意を払う必要がある。
これは何も投資に関してだけではなく、どんなことにも言える。「自分が常に正しい」と思って持論を展開する人、異論があるとただひたすら全否定、全批判する人がいるが、これはあまりにも短絡的な思考だ。「ふむふむ、確かにそういう意見もあるな」とか、「なるほど、そういう点に関しては確かに考察していなかったな」などと反対意見を聞き入れることで自分の分析を深めることができる。
僕の例でいうとビヨンド・ミート(BYND)に関しては確証バイアスに陥っている可能性がある。意図しているわけでもないが読むレポートや本のどれもが代替肉の未来は明るいというような内容だ。だからこそ、僕自身で「いや、でも実はそんなに普及しないかもしれない」とか「コスト面でやはりまだまだ普通肉には及んでいない」とブレーキをかける必要がある。意識的に代替肉や植物肉に対するネガティブ記事も探す努力というのは続けるべきだと常に念頭に置いている。
また、確証バイアスを回避できた例で行くと、ある不動産物件に投資をしようか考えていた時、様々な観点から分析したり、本を読んだりして、やはり良い物件だなと思い、投資をしようか本格検討していた。
ただし、友人にこの話をしたときに、「そんなに魅力的ならもう売れてていいんじゃね?まだ売れてないってことは何かネックになってる部分があるんじゃない?」といわれ、冷静さを取り戻したことがある。
確かにその通りで、もしも僕が考えているほどに魅力的なのであれば僕のちまちました分析なんか待たずに売れていただろう。売れないということは1)値段が高すぎる、または2)何か僕の気づいていない欠点がある、の2つが浮かぶ。
いずれにせよ、盲目的につっこむのではなく、冷静な、どこか冷めたような視点というのも大事だ。
まあ、しかし大きなお金が動くものなので、最後の最後は気合でえいや!とやる度胸も必要ではある。慎重であれば良いというものでもない。思い切りも大事なので諸刃の剣でもある。
3)ホットハンドの誤謬
これも多くの人が陥りやすい心理状況である。
あなたは買った株が直後に値上がりしたら、ラッキーと思うだろう。
そのあと買った別の株も上がったら、おしおし、なんかいい流れだぞと思うだろう。
3回目に買った株が上がれば、あれ、俺ってもしかして才能あるかも?と思い、
4回目に買った株が上がれば、自分は投資の天才だろうと確信する。
そして5回目の株式投資でこれまで以上に大胆な行動をとってしまう。
というように、ある事象が繰り返し起きて、自分の能力を過大に評価し、必要以上に大胆な行動をとってしまうことをホットハンドの誤謬と呼ぶ。
少し本旨とはずれるかもしれないが、よく競馬やパチンコをやっている人が「今日は〇〇万円勝った!俺には才能がある」とかいう人がいる。そりゃ、そういう日もあるだろうが、「じゃあ、これまでのトータルの収支はどのくらい?」と聞くと良くてトントン、悪くてマイナスだ。当然だが、いかさまでもしない限り、勝ち続ける人はいない(ただし負け続ける人はいる)。勝ち続けても、常に「運が良かっただけ」と割り切って自分の能力を過大評価してはいけない。特に損切りをする人は、結果的に買っているポジションだけが残ることになるので、ポートフォリオをみてもさも一度も損をしたことがないように錯覚してしまうかもしれないが、決してそんなことはないのだということを自覚して収支記録はしっかりとつけておくことが肝要だ。
逆に、ある事象が続くと「そろそろ別のことが起きるだろう」と考えて逆張りしてしまうことは「ギャンブラーの誤謬」という。心理学とはなんともご都合主義的な学問である。なんでもありだ。
このように、自身の投資スタイルに影響を及ぼす心理的なノイズは多くある。ここに挙げたもの以外にも該当するものはある。
「投資スタイルの確立」と非常にシンプルに述べたが、「確立」となるとそんなに容易なことではなく、特に投資当初はトライアル・アンド・エラーの繰り返しだろう。
実際に激しく上げ下げしている株価チャートをみながら投資をするとなると、アドレナリンが出て、興奮状態となり、冷静な判断ができにくくなる。常日頃からこのような「冷静な投資判断」を妨げる心理的なバイアスには注意を払い、そもそもどのような心理バイアスがあるのかと理解する必要がある。
投資マインドの確立
分析スタイルの確立
そしてこれらを妨げる心理バイアスの理解
この3つを頭に入れることで自身の投資スタイルの確立へとつながるのだ。
推奨株の動向アップデート
日本株
グロース株 | 推奨日株価 | 直近株価 | 騰落率 |
ロング推奨 | |||
任天堂(7974) | 46,840 | 57,920 | +23.65% |
ソニー(6758) | 6,706 | 7,603 | +13.38% |
スクエアエニックス(9684) | 4,490 | 6,600 | +46.99% |
バリュー株 | 推奨日株価 | 直近株価 | 騰落率 |
ロング推奨 | |||
ナガセ(9733) | 5,400 | 5,450 | +0.93% |
ショート推奨 | |||
ルネサンス(2378) | 1,051 | 842 | -19.89% |
セントラルスポーツ(4801) | 2,498 | 2,176 | -12.89% |
保有銘柄は一律に下落。ただし、下落幅としてはショート推奨銘柄のほうが大きいので、ポートフォリオ全体の影響としては限定的。
米国株
グロース株 | 推奨日株価 | 直近株価 | 騰落率 |
ロング推奨 | |||
ビヨンド・ミート(BYND) | 181.86 | 183.58 | +0.95% |
ビヨンド・ミートは週中上げ下げが激しかったが最終的に推奨日から横ばい。大統領選挙がらみで米国株式市場は今後も変動が激しいだろう。一時的な低下局面は投資機会だと思うので、今後も粛々と追加投資をしていく予定だ。
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