本業でも、個人的にもここ数か月、「農業」や「アグリテック」について、リサーチをしてきたのだが、これまで培ってきた知見をもとに、久しぶりに企業分析と魅力的な株の紹介をしてみたいと思う。その前に今回のブログでは投資テーマの設定のお話をしたい。
今朝(2020年10月4日)の日経新聞にも紹介されていたが、今後世界的に成長が期待できると考える代替食品のお話をしたい。
代替食品という解決策
これまで4回にわたって、「農地投資」の魅力やその特徴について紹介してきた。
参考
いま最もアツい投資テーマの一つ、「農地投資」を考える その1農地投資概要
いま最もアツい投資テーマの一つ、「農地投資」を考える その2 低位な景気循環性
いま最もアツい投資テーマの一つ、「農地投資」を考える その3 食糧需給の今、そして未来
いま最もアツい投資テーマの一つ、「農地投資」を考える その4 生産性の向上を支える未来の技術
特に第4回では食糧需要に対応するために足元注目されている技術(アグリテック)について紹介してきた。
今までは「農地投資」という観点で話を進めてきたので、意図的に触れてこなかった分野がある。それが「農地での生産性の向上以外のテクノロジー」である。農地投資においては、当然、農地での生産性の向上を実現できるような技術の紹介に終始したが、当然「農地外」における技術も非常に進展している。
例えば「植物工場」と呼ばれる、施設内で作物を栽培する農法も最近は拡大しており、日本でも実際に植物工場で栽培された作物が市場に流通している。耕作可能農地面積に限りがあるのなら、もはや「農地を使わないで栽培すればいいではないか」というのが植物工場の本質的なコンセプトである。肥料や水資源などの管理も農地栽培よりも効率的に行うことができ、これはこれで「生産性の向上」に大きく寄与するものである。
さて、本題は「植物工場」ではなく、「代替食品」である。第3回でお話ししたが、家畜の飼育は非常に効率の悪い農業だ。肉牛を1頭育てて出荷されるまでにかかる飼料や人的コストはとても高く、容易に改善できるものでもない。消費されるエネルギーも莫大なものであり、環境保全の観点からも決して良いものとは言えない。最近は動物愛護への関心も高まっており、そもそも家畜の(最終的に殺すためだけの)飼育、屠殺に対する嫌悪感からビーガンやベジタリアンも世界的に増えている。個人的にはお肉大好き人間ではあるが、それでも屠殺に対して決して良いイメージを持っているわけではない。
そんな中、いま注目を浴びているのが「植物肉」と「培養肉」である。どちらも人間から家畜への生殺与奪の力をなくし、「肉に代わる肉」というのがこの「植物肉」と「培養肉」なのだ。
簡単にこの2つの違いをみていきたい。
「植物肉」
植物由来の原料を用いて、見た目、におい、食感、味、調理体験などを限りなく肉に近づけたもの。動物由来の原料等は用いない。
「培養肉」
家畜の細胞を採取し、それを培養(増やして)作り出した、肉。元をたどれば家畜の細胞なので、前述の「植物肉」とは異なり、こっちは本物の肉である。本物の肉であるが、「屠殺」を通じた肉の獲得でない点が伝統的な畜産と一線を画している。
なぜこのような「代替肉」が注目を集めているのだろうか。理由としては次のようなものが考えられる。
代替肉が注目されるポイント
1)食肉需要への優良な対応策
2)環境保護の観点からも優秀な製造過程
3)高まる健康志向と動物愛護志向に対応しており、高所得者層やビーガン、ベジタリアンからの注目も高い
一つずつみていこう。
1)食肉需要への優良な対応策
農地投資に関するブログの第3回で書いたが、新興国経済が発展し、人々が豊かになっていく中で、食肉需要は高まっている。今後は増加する人口の中でもこういった新興国の中間所得層による食肉需要の高まりに農産業は対応を迫られることになる。こちらも第3回で触れた通り、そういった中で畜産業は決して効率性(コスパ)の良い事業ではない。簡単にいえば1キロの牛肉を得るのに投下する飼料、水、労働コストは1キロのトウモロコシを得るのに投下するインプットと比べると比較にならないほど大きい。
当然家畜を飼育するのには膨大な農地と設備も必要となるため、こういった観点からも農家の負担は大きくなる。
代替肉はこうした負荷を相当程度抑えることが可能だ。コスパの良さに関しては、下の2)も合わせてご参照いただきたい。
2)環境保護の観点からも優秀な製造過程
次のブログで紹介するビヨンド・ミート社のホームページに記載のあるミシガン大学の調査をみると、1/4ポンド(約110g)植物肉の生産と同量の牛肉の生産を比較すると、
水資源:99%削減
必要な土地:93%削減
温室効果ガスの排出:90%削減
エネルギー消費量:46%削減
できるとのことだ。
このように各項目でみても代替肉(上記は特に培養肉)のコスパが良いことがわかる。環境面でも優秀な中、今後の食肉需要の増加に対して、この代替肉は大きな解決策となり得ると期待されている。
3)高まる健康志向と動物愛護志向に対応しており、高所得者層やビーガン、ベジタリアンからの注目も高い
新興国で食肉需要が高まっているのと裏腹に、欧米など先進国では逆に健康志向および動物愛護志向の高まりから、動物性たんぱく質を減らしたいと考える人々の割合が高まっている。実際、動物性タンパク質から植物性タンパク質へと切り替えることで、糖尿病リスクや発がんリスクが減少するとのデータも出てきている。
健康志向のほかに、特に若者世代では動物愛護の観点からも代替肉への注目が高まっている。欧米ではビーガンやベジタリアンが増えているが、代替肉はこのような「本物の肉は食べない消費者も取り込むことができる」という意味で優秀な食品だ。
近代農業やアグリビジネスについてリサーチする中で、この「代替肉」に対して、非常に高い将来性を感じた。
「代替肉に対する高い将来性」を投資テーマにしたときに、浮かび上がる一つの企業がある。それがビヨンド・ミート社だ。
次回はこのビヨンド・ミート社に対する分析をしていきたい。
参考
日経新聞「植物肉「普及元年」に コロナ契機に消費者選好」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64589280T01C20A0EA1000/
ビヨンド・ミート社
https://www.beyondmeat.com/about/