これまでコロナと投資関連の投稿を4回書いてきたが、今回はコロナ後の世界について考えていきたい。
これまでの投稿
コロナと投資1
コロナと投資2
コロナと投資3 グロース株とバリュー株
コロナと投資4 仮説と検証を常に意識する
コロナ禍収束後、世界はコロナ前と同じ世界なのだろうか、それともこれまでと違う世界が待っているのだろうか。違う世界となる場合には、どのような世界・社会になっているのかについて今回は考察していく。
世界的に経済活動再開の流れ
日本では、特に大都市圏では非常事態宣言が延長されたばかりなので、あまり実感を伴わないかもしれないが、世界的に、そして一部日本でも、経済活動が段階的に再開し始めている。または再開し始めようとの機運が高まっている。
しかしコロナの完全収束までは、まだ時間がかかると考えられ、社会の完全復旧もいつになるのか現状ではわからない。少なくとも治療薬が開発・普及し、コロナにかかっても「薬を飲めばいいや」くらいの軽い認識になるまでは感染被害が本質的な意味で落ち着くことはないだろう。収束まで1年程度かかるとの見方もある。今後経済活動を順次再開していく動きになると思うが、第2波、第3波、と感染被害が再燃する可能性は常に付きまとう不安定な再開となるだろう。そうしたらまた非常事態宣言を出すのか、非常事態宣言を出さないまでも再び営業自粛要請を出すのか、楽観的な見通しは立たないままである。
経済活動の自粛で見直される消費
4月の緊急事態宣言以降、一部の小売やサービス、社会インフラを除いて、多くの小売業、サービス業が営業自粛となった。人々の外出控えもあって、これまでの消費行動を見直す好機となっていることだろう。
前述の通り、今の段階で経済活動の完全再開を考えるのは時期尚早ではあるが、仮にそのようになった場合に社会はどうなっているだろうか。今回は海外での調査・分析を紹介したい。
人々の消費意識の変化
まずは米コンサルティング会社(Boston Consulting Group)が手掛けた調査をもとに人々の消費意識の変化をみていきたい。調査対象は欧米諸国であることから必ずしも完全に日本の消費者の動向と合致するわけでもないが、概要をとらえるのには有用であると思う。
まずはコロナ禍の発生によって消費意識は変わったかどうかという調査である。
このグラフにある通り、欧米各国の70%以上の消費者がコロナ禍前と今とでは生活に変化があったと答えており、50%はこの変化は今後も継続し、コロナ禍収束後も意識は変わらないだろうと考えている。
ただし、当レポートでも言及されているが、これらの意識調査を完全に鵜呑みにすることはできない。人々の意識は変わりやすいものであるし、状況が変われば特にその傾向は強くなる。年初に立てた目標を今でもしっかり意識している人は少ないし、「今年は痩せるぞ!」といってスポーツジムに入会したはいいが、実際は全然通っていないというような経験は誰しもがあるだろう。なので、上記のデータの数値ほどに人々の行動が変化するとは想定しにくい。また、過去にも例えば9.11以降、「今後飛行機に乗る回数は減らす」と考える人が多かったが、実際は顕著な利用者減はみられず、数年後には利用者数は9.11前の水準まで正常化したという事例もあり、現在のような危機下において考えていることも状況の改善に伴って、意識が変わることは考えられる。人は大きな変化を好まず、現状維持を好む傾向があることには注意が必要だ。このことは今後の分析においても常に意識する必要がある。
次のグラフでは人々は生活必需品と一般消費財(非必需品)に対する今後の消費計画に関する意識調査であるが、日々の消費活動を見直した結果、今後生活必需品の購入を増やすという回答が高い反面、一般消費財の消費は減らすとの回答が目立つ。
外出自粛がもたらした生活の変化
営業自粛や都市封鎖を受けて、人々の生活は大きく変わった。コロナ禍前よりも時間が減った活動もあれば増えた活動もあるだろう。次のグラフでは、「人々が以前よりも増えた活動について楽しんでいるかいないか」(左図)、「人々が以前よりも減った活動について恋しく思っているか、減ったことをうれしく思うか」(右図)を表している。
左図について、料理やビデオ通話、オンラインでの習い事に関しては「コロナ禍以前よりも増えており、かつ楽しんでいる」割合が高いものであり、当レポートではこれらはコロナ禍以後も人々は継続する可能性が高いと分析している。確かにオンラインでの習い事を始めた人は、少なくともそのプログラムが終わるまでは習い事を継続するだろうし、物理的に通わないで済む、隙間時間に行うことができる利便性を感じた人は今後も別のレッスンの受講をする可能性が高いかもしれない。逆に、緑の網掛けになっている部分は、「楽しんでいる人が多い一方、楽しめていない人の割合も相当程度いる活動」である。これらに関してはコロナ禍以後行動が変わる可能性があり、注意が必要だ。
右図について、「活動自粛で恋しく思っているモノ」の上位は、旅行、屋外活動(コンサートや美術鑑賞を含む)、映画鑑賞、外食、運動、スポーツ観戦である。この辺は日本でも同様の傾向があるのではないだろうか。一方、こちらも緑の網掛けの部分については、どちらとも取れない活動であるが、これには出張、外食のテイクアウト、オンライン・レッスン(習い事)、実店舗への買い物、オンライン・ショッピングが挙げられている。実店舗およびオンライン・ショッピングの両方がどっちつかずとなっているのは興味深い。ウィンドウ・ショッピングを早くまた楽しみたいと考えている人がいる反面、オンライン・ショッピングの利便性に気づいた人も多いということだろう。
当レポートではまた、消費意識は子持ちかどうかでも変わってくるとの分析がなされているが、ここでは言及しない。当レポート原文は最後にリンクを貼っておくので興味があれば覗いてほしい。
別の米調査会社(Morning Consult社)でも類似した分析を行っているので紹介したい。こちらは米国のみを対象としている。下の表はコロナ禍によって増加または減少した活動である。BCGの調査よりも細かい項目で集計されていて興味深い。結果はBCGと大きく変わらず、増えた項目の上位は料理、ビデオ通話、少し表の下に来ているが「新たな技能(スキル)の取得」、「オンライン・レッスン」もある。
下のグラフは、(普段から活動として多いものについて)コロナ禍収束後も継続して行うかどうかのアンケート結果である。特に各項目右の棒グラフをみてほしい。BCGの調査結果と近いものであるが、コロナ禍後消費活動を減らすという割合が多い項目として「ソーシャル・メディアの利用」、「ストリーミングによるテレビ番組、映画の視聴」、「テレビゲーム」、「一般消費財のオンライン・ショップ」が挙げられている。足元は利用増状態であるが、このようなサービスを手掛ける企業は、コロナ禍後も消費者を定着させるような施策が必要であると述べられている。僕の投稿でいうところのグロース株にあたるものであろうか。今堅調だからといって、今後も堅調だとは限らない。
最後にコロナ禍によって増えた活動について、今後も継続するかどうかについてのアンケート結果である。(下図)
こちらも各項目右の棒グラフを中心にみてほしいが、「新たに始めた趣味」と「新たな技能(スキル)の取得」はコロナ禍以後も継続したい活動として挙げられている一方、「オンライン・シッピング」や「外食のテイクアウト」は「続けたい派」と「減らしたい派」が拮抗している。特に後者はBCGによる調査と矛盾しない。
アフター・コロナの世界
日本ではつい先日緊急事態宣言の延長が決まったばかりなので実感がなかなかできない部分もあるが、世界は着実にアフター・コロナへと向かっている。今回紹介したような調査・分析も欧米ではすでに始まっていることがわかる。日本でも今後「アフター・コロナ」に関するリサーチが本格化するだろうが、欧米での調査を先取りで知っておくことは重要だと思う。
今後、欧米での段階的な経済活動の再開がどのような結果を生むのかは注目に値する。第2波、第3波に関する懸念は杞憂に終わるのか、それとも感染被害が再燃するのか。日本の政策決定者も動向を注視するであろう。出口戦略に関してはこれからも目が離せない。
次回は今回の調査を踏まえて僕なりの注目セクターを紹介していきたい。
参照レポート:
Boston Consulting Groupによるレポート