日本版FIREを考える その3:究極の不労所得 貸株


これまで2回に分けて日本版FIREについて考えてきた。

 

日本版FIREを考える その1 FIREとはなにか、なにを目指すのか

日本版FIREを考える その2 株式投資による配当と株主優待に関する再考

FIRE実現のための数式は

FIRE実現への道=(収入)-(支出)

の最大化である。このために必要なのは「収入の最大化」および「支出の最小化」である。

前回の投稿では株式投資による配当および優待を用いた「収入の最大化」と「支出の最小化」の両方の実現について話した。

今回は同じく株式投資による「収入の最大化」について考えていきたい。保有している株を貸すことによって貸し出し金利を受け取るというものである。これを「貸株」という。「貸株」を有効活用することで前回話した、配当・優待を享受しながら、新たな収入源として貸株収入を得ることができるのだ。

そもそも貸株とは何か

市場にはいろんな人がいる。株を買いたい人もいれば売りたい(空売り)したい人もいる。前者を現物取引といって、その名の通り実際の株式をやり取りすることである。後者を信用取引といって実際にはないものを売り買いする方法である。空売りの簡単なスキームは下記の通りだ。

空売りをしたい人はまず自分が持ってもいない株をどこからか「借りてきて」それを売る

売ったことで得たお金は現物取引など好きに使うことができる

売った株の株価が下がったら買い戻して、「借りてきた」人に返す

高く売って、安く買い戻す。その分の下げ幅が空売りした人の利益となる。そして貸株とはまさにこういう空売り勢に株を貸すことである。実際には貸株勢と空売り勢を仲介するのは証券会社なので、貸し手は証券会社となるが、自分が貸した株の使い道はこういう空売りということだ。

貸株をすることで受け取ることができるのが「貸株金利」というものである。この貸株金利は銘柄によって異なる。基本的に0.1%であるが、銘柄によっては10%以上にも上るようなものもある。

貸株をすることによるメリット

この貸株をすることによるメリットは以下の通りだ。

1)「配当金相当額」を受け取ることができる

2)優待も問題なく受け取れる

3)貸株中も売買は自由に行うことができる

4)貸株金利を受け取ることができる

一つ一つみていこう

1)「配当金相当額」を受け取ることができる

保有する株が手元から離れ、貸しに出したとしてもちゃんと配当金と優待を受けることができる。厳密には投資先からの「配当金」を受けることはできないが、「配当金相当額」なるものを貸し手である証券会社が立て替えて払ってくれる。これは配当金と同等の金額なので、実質的に配当金を受け取っていることと変わりはない。

2)優待も問題なく受け取れる

優待も問題なく受け取れる。スキームとしては優待の権利を取得する日(権利確定日)に合わせて、証券会社が自動的に一時的に貸株サービスを外し、こちらの手元に株を返す、という方法で権利確定をさせる。権利確定後再び貸株に出すという対応をとることで、優待を受ける権利は自分自身に残すことができる。しかもこのめんどくさい作業も貸株サービスを利用するときに設定しておけば、証券会社が勝手にやってくれるので便利だ。

3)貸株中も売買は自由に行うことができる

貸株に出していても自由に売買することもできる。したがって、実質的には取引時点で貸株に出していて手元にない株についても問題なくいつでも好きな時に売ることができる。こういう意味でも普通に株を持っているのと変わらない。貸株サービスを利用することによる不便さはない。

4)貸株金利を受け取ることができる

そして当然最も大事なことだが、貸株に出すことで完全に不労所得として貸株金利を受け取ることができる。基本的に貸株金利は0.1%だが、銘柄によってはそれ以上の金利が受け取れることができる。ただし、貸株金利は空売り勢からの需要によって変わるので、0.1%だったものがそれ以上になることもあるし、10%の貸株金利が今は享受できるものの突然0.1%まで下がることがあるので注意が必要だ。

受け取れる貸株金利の計算式は下記の通りだ。金利は毎日発生するので次の式は日々の受け取り金利の計算方法だ。

日々受け取る貸株金利収入=株価(時価)×保有株式数×貸株金利÷365

例えば、株価1000円の株を100株持っていて貸株金利が0.1%だとすると1日で受け取れる貸株金利収入は

1000×100×0.1%÷365=0.27円

1か月(30日)で8円である。

しょぼいといったらしょぼい。でも10万円の投資で何もせずにお金を稼ぐことができていることに変わりはない。

日々受け取る貸株金利収入=株価(時価)×保有株式数×貸株金利÷365

この数式で変数は3つある。株価、保有株式数、貸株金利。つまりこれらが変動すれば受け取る金利も変動する。株価と貸株金利は市場の動向に任せるしかないが、保有株式数を上げることで金利収入を増加させることはできる。

貸株のリスク/デメリット

貸株を行うことによるリスクとデメリットについて述べる。メリットしかないというほど世の中甘くない。しっかりと負の側面に関しても触れることは常に重要である。デメリットとしては以下のものが挙げられるだろう。

1)長期保有によって恩恵を受ける優待を受けられない

2)配当金相当額は雑所得なので配当控除が受けられない

1)長期保有によって恩恵を受ける優待を受けられない

優待の中には長期保有(1年以上継続的に持っていることなど条件を満たす)することで受け取れる優待の内容が良くなるというものがある。貸株に出すと、一時的かつ名目上とはいえ、保有が自分から離れるので、長期保有しているとはみなされず、長期保有によって良くなる優待内容を受けられない。長期保有によるメリットと貸株によるメリットを比較して、どうするべきか一考する必要があるだろう。

2)配当金相当額は雑所得なので配当控除が受けられない

税金の話は常にややこしくかつ分かりにくいという国家的策略があるため、これについて細かく言及すると本一冊書けるレベルになってしまうのでここでは割愛する。しっかりと企業から配当金という形で配当を受け取った場合、課税所得の条件を満たすと配当控除で支払う税金を安くすることができるが、あくまで証券会社からの配当金相当額として受け取ると雑所得として受け止められ約20%の税率が課される。正直そこまで気に留めなくて良いと個人的には思えるレベルのものである。

具体的にはご自身で確認してもらいたい。

貸株金利収入を最初に追求するのは本末転倒

最後に貸株について注意するべき点を一つ紹介したい。貸株金利は非常に楽に受け取れる不労所得だ。株に投資していれば、それを貸株サービスに一度出せばあとは面倒なことは全部証券会社に任せて貸株金利収入を受け取ることができる。

ただし、冒頭で軽く触れたが、貸株の使い道は空売りである。そして、空売りされる株というのは「将来的に値下がりする可能性が高い株」ということである。

貸株金利収入の最大化のために貸株金利が高い銘柄を狙って投資すると落とし穴に落ちる可能性がある。なぜなら、貸株金利が高いということはそれだけ空売り勢から空売り需要の高い銘柄であるということだ。もう一度貸株金利収入の式に戻る。

日々受け取る貸株金利収入=株価(時価)×保有株式数×貸株金利÷365

保有株式数を一定(例えば100株)として、貸株金利の高いもの、例えば20%の銘柄を好んで買ったとしよう。

例えば株価が1000円の場合受け取れる貸株金利収入は

日々受け取る貸株金利収入=1000×100×20%÷365=54.8円

1か月(30日間)この条件が続いたとすると

54.8円×30=1643円の貸株金利収入が得られる。先ほどの1か月8円と比べると雲泥の差である。しかし、貸株金利が高いということはそれだけ株価が下がると考える投資家が市場に多いということを意味する。株価が落ちるとどのくらい株式投資に影響を与えるのかをみてみると次の表のようになる。

この表では株価1000円の株を100株購入して毎日5円株価が下がった場合の日々受け取れる貸株金利収入と現物の含み損を記載したものである。

株価 株数 貸株金利 受け取る貸株金利収入(日) 現物の含み損
1 1000 100 20% 54.79 0
2 995 100 20% 54.52 -500
3 990 100 20% 54.25 -1000
4 985 100 20% 53.97 -1500
5 980 100 20% 53.70 -2000
6 975 100 20% 53.42 -2500
7 970 100 20% 53.15 -3000
8 965 100 20% 52.88 -3500
9 960 100 20% 52.60 -4000
10 955 100 20% 52.33 -4500
11 950 100 20% 52.05 -5000
12 945 100 20% 51.78 -5500
13 940 100 20% 51.51 -6000
14 935 100 20% 51.23 -6500
15 930 100 20% 50.96 -7000
16 925 100 20% 50.68 -7500
17 920 100 20% 50.41 -8000
18 915 100 20% 50.14 -8500
19 910 100 20% 49.86 -9000
20 905 100 20% 49.59 -9500
21 900 100 20% 49.32 -10000
22 895 100 20% 49.04 -10500
23 890 100 20% 48.77 -11000
24 885 100 20% 48.49 -11500
25 880 100 20% 48.22 -12000
26 875 100 20% 47.95 -12500
27 870 100 20% 47.67 -13000
28 865 100 20% 47.40 -13500
29 860 100 20% 47.12 -14000
30 855 100 20% 46.85 -14500

 

このシミュレーションによると1カ月間で受け取る金利収入と1か月後の投資による含み損は次のようになる。

 

1か月間に受け取る貸株金利収入 1か月後の含み損
1,525 -14,500

 

確かに1か月に不労所得として1500円以上も受け取れればありがたいが、株式投資としては株価が下がっているので14,500円の評価損を出している。これでは本末転倒だ。1525円受け取るために14,500円を犠牲にしてしまっている。

もちろんこれはシミュレーションであり、実際の市場はこれよりも複雑な動きをする。ただ貸株金利が高いということ=空売り需要が大きく、将来的な株価下落が予想されていること

ということを忘れてはいけない。もちろん、空売り需要が大きいからって実際に株価が下がるとも限らない。そうなれば万々歳であるがいずれにしても予想できるものではない。また、現時点で貸株金利が高くても、この高金利がいつまで続くかもわからない。高金利というだけで買った銘柄が値は下がる、貸株金利も下がるではダブル・パンチとなってしまう。

あくまで、貸株金利は株式投資の補助的な役割に留めておいたほうが良いといえる。


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