世の中には「プロ投資家」と呼ばれる人がいて、書店にも彼らによる指南書が多く並んでいる。「プロ投資家」とはどういった存在なのか。この投稿では「プロ投資家」と呼ばれる人たちの正体を明らかにさせつつアマチュア投資家であっても、投資の成功に関しては何ら関係がないことを説明する
プロ投資家は「投資がうまい人」のことをいうのではない
「プロ」と「アマチュア」を分けるものは何だろうか。一般的な認識として、「プロ」とは「その道において非常に優れた人で、それを生業にしている人」、「アマチュア」とは「趣味レベルでそれを行っており、それを本業とはしていない人」という区別があるだろう。
例えば「プロ野球選手」と言えば野球が非常に上手な人たちである。高校・大学・社会人野球の中でもごく限られた人しか「プロ野球選手」にはなれず、また1軍の試合に出ている選手などは「プロ中のプロ」、野球界では最高峰の存在である。仮に、野球を少しかじったことがある人(アマチュア)がプロと試合をしたところで、歯が立たないし、一方的な負け試合になることは目に見えている。プロとはそれだけ絶対的存在であるし、絶対的存在でなければならない。プロとアマチュアの差が激しければ激しいほど、プロとしての存在価値は高まる。
では投資の世界における「プロ投資家」とは何者であろうか。日本においては、金融商品取引法で厳格に「プロ投資家」と「アマチュア投資家(一般投資家)」が定義されている。細かい法令の部分は置いといて簡単に表現すると「プロ投資家」とは「各種開示事項などが免除される存在」のことである。つまり、「プロ投資家は投資を行うことによるリスクに十分に精通しているのだから、細かいところまで説明したり、投資家保護の適用をしたりしなくても大丈夫な存在」ということである。逆に個人投資家を含む「一般投資家(アマチュア投資家)」にはしっかりと投資に伴うリスクの説明や情報の開示が必要であるということである。つまり、いわゆる「プロ投資家」と「アマチュア投資家」との定義において「投資がうまいかどうか」は関係ない。あくまで「投資に関連する理解が十分にあるかないか」である。「プロ投資家」には「機関投資家」や「国」、「日本銀行」などで構成されている。書籍などで登場する「プロ投資家」とは多くの場合「機関投資家」のことであろうと思う。
「機関投資家」とは簡単に言えば金融機関のことである。銀行・保険・証券会社などが機関投資家と呼ばれる存在だ。ではこれら機関投資家の運用部隊または独立した投資会社・資産運用会社は投資にうまいといえるのだろうか。
プロが必ずしも勝つわけではない理由:アクティブ・ファンドとパッシブ(インデックス)・ファンドのパフォーマンスを比較する
プロが必ずしもアマチュアに勝つわけではないということをどのように説明すればいいのかは難しいが、アクティブ・ファンドとパッシブ(インデックス)・ファンドのパフォーマンスを比較してみるのは一つの手がかりとなる。
アクティブ・ファンドとは、「市場を上回るリターンを出すことを目指して運用されるファンド(投資戦略、投資商品)」であり、パッシブ(イデックス)・ファンドとは「市場のパフォーマンスに連動するようなパフォーマンスを目指すファンド」である。アクティブ・ファンドは運用者(ポートフォリオ・マネージャー)が独自の判断で市場を上回る投資成果を目指して日々運用しており、市場リターンをどれだけ上回ったかがその運用者の技能の高さと言える。
優れたアクティブ・ファンドが存在することは否定しないが、世界的にパッシブ・ファンドのほうがアクティブ・ファンドよりも長期的には運用パフォーマンスが良いというのが定説となりつつあり、実際に最近ではパッシブ・ファンドの運用資産残高がアクティブ・ファンドを上回っているという報道もある(「アクティブ・ファンド パッシブ・ファンド 資産残高」などで実際に検索してみるといくらでもこのような記事が出てくる。中立的な報道としてグローバル金融情報大手のBloombergやトムソン・ロイターなどの記事を見てみるのが良い)。
アクティブ・ファンドがパッシブ・ファンドに勝てない理由①:高い運用報酬
では、なぜ優秀な人材が充実したリサーチ体制を要しつつも、市場に勝てないのかについて考えてみる。いろいろな要因が考えられるがここでは主なものについて言及する。
まず大きな要因として挙げられるのはアクティブ・ファンドの運用報酬の高さである。アクティブ・ファンドとパッシブ・ファンドを比較すると、アクティブ・ファンドのほうが運用報酬(手数料)が高くなる傾向が強い。なぜかというと、パッシブ・ファンドであれば「市場に沿ったリターンを創出すればよい」ので極端な話、比較するインデックスと類似した銘柄構成でポートフォリオ(投資した銘柄の組み合わせ、投資銘柄によって構成されたバスケット)を構築すれば、あとは大きな管理は必要となくなる。一方、アクティブ・ファンドではポートフォリオ・マネージャーやリサーチ・アナリストが協同して投資妙味のある企業・銘柄を分析・発掘し、ポートフォリオへ組み入れ後も投資先企業の動向のモニタリング、銘柄価格の適切性の分析、新たな投資銘柄の発掘など、運用における手間は非常に多く、マンパワーが必要となる。これらの手間・マンパワーへの対価としてパッシブ・ファンドと比較して高い運用報酬が請求される。
市場対比、アクティブ・ファンドの超過リターンが小幅だった場合、運用報酬控除後のリターンがパッシブ・ファンドよりも低位になりやすくなる。このように高い運用報酬はそれだけでアクティブ・ファンドにとって不利な状況を作り出す。
アクティブ・ファンドがパッシブ・ファンドに勝てない理由②:分散効果
アクティブ・ファンドがパッシブ・ファンドに勝てない主な理由の2つ目は分散効果を享受できるかどうかにある。
パッシブ・ファンドはインデックスと類似したポートフォリオを構築するため、多くの銘柄によって構成されているのに対し、アクティブ・ファンドはポートフォリオ・マネージャーが投資妙味があると判断した銘柄に「厳選して」ポートフォリオを構築するため、構成銘柄数はパッシブ・ファンドよりも少なくなる。
このような場合、例えば原油価格が下落しエネルギー・セクター(業種)の企業の株価が大きく値を下げた場合、パッシブ・ファンドであれば影響を受ける銘柄の数は全体としては低位に抑えられるが、アクティブ・ファンドの場合、全体における影響は大きくなる場合がある。
分散効果の効能は良く「かごに入れた卵」に例えられることがある。たくさんの卵を一つのかご(同一のセクターへの集中投資や少ない銘柄で構成されたポートフォリオ)に入れてしまうと、そのかごを落とすと多くの卵が割れてしまう可能性がある。しかしたくさんの卵を例えば10個のかごに分散して持っていれば、仮に1つ、2つのかごを落としてしまっても残りのかごへの影響を抑えることができる。分散効果については、別の投稿でも詳述していきたい。
このように、同じ投資額でも分散を広く効かせることは非常に重要である。アクティブ・ファンドも当然可能な限りの分散を心がけてはいるが、パッシブ・ファンドと比較すると分散の度合いでは不利とならざるを得ない。
アマチュアであっても、プロと対等に戦えるのが投資の世界である
これまで見てきた通り、プロとアマチュアを区切るものはあくまで制度上(法令上)のものであり、プロ・スポーツ選手とアマチュア選手のように技能による区別ではない。また体制が十分に整備されているプロ投資家であっても金融市場において決して連戦連勝で市場に勝てるものではない。そういう意味でも多くの個人も「働かなくても稼ぐ」投資家になり、自分の資産の形成に取り組むべきである。プロとアマチュアの壁が低いのが投資の世界なのである。